古いタイプのファイリング・キャビネット。ファイリングの正しいやり方が分かっているかどうかでデジタル化に差が出る(写真:CavanImages/イメージマート)

 少子高齢化と人口減少が進むわが国の社会の質を維持し、さらに発展させるためには、データの活用による効率的な社会運営が不可欠だ。一方で、データ活用のリスクにも対応した制度基盤の構築も早急に求められている。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、これまでの経済、社会のあり方は大きく変わろうとしている。

 その中で、日本が抱える課題をどのように解決していくべきか。データを活用した政策形成の手法を研究するNFI(Next Generation Fundamental Policy Research Institute、次世代基盤政策研究所)の専門家がこの国のあるべき未来図を論じる。今回は理事長の森田朗氏による日本式情報管理の時代遅れについて(過去14回分はこちら)。

日米で大きく異なる「情報」の考え方

(森田 朗:NFI理事長)

 今年9月に発足するデジタル庁をはじめ、日本社会のデジタル化が急速に進もうとしている。関連法も近く成立する見込みで、国レベルで個人情報保護制度が一本化されるのに加えて、保護基準等が47都道府県や自治体ごとにバラバラであったいわゆる「2000個問題」も解決しそうだ。コロナ禍で、わが国のデジタル化が先進諸国より1、2周遅れであることが露呈したことが拍車をかけている。次の問題はこれでわが国のデジタル化が一気に進むのかどうか、だ。

 デジタルのシステムが整備され、ネットワーク網が全国をカバーし、クラウドにデータが保存されるようになれば、安全にどこからでもデータベースにアクセスできるようになるはずだ。しかしそれは器の話でしかない。重要なのは、そのデータベースに格納される情報の作成方法、分類方法、類型の体系化等だ。デジタル化とは、従来の紙ベースでの情報処理をそのままデジタル化するのではない。情報の作り方、使い方自体もデジタル化に応じたものにしていかないと、その効果を期待できないのである。

 30年以上前に米国に視察に行ったことがある。この時の調査の目的は、情報公開制度の運用実態を調べることだった。当時、日本の地方自治体で情報公開制度が導入され初めていたからだ。公開するといっても、公開できるように情報が管理保管されていないと、対象たる情報を特定できない。そこで、情報公開の対象となる公文書がどのように整理され保管され、利用されているのか、情報公開制度の先進国に見に行ったのである。

 短期間の調査ではあったが、そこで強く印象に残ったことがある。そもそも組織で作られ、保有され、利用される情報についての考え方が、わが国の文書についての考え方と異なっていることだ。そして、その米国の考え方は、企業形態や雇用形態と深く結びついているということである。

 もちろん、これは一世代も前に、ごくわずかの役所や団体の事務所で見聞したことであり、米国がこうであると一般化するつもりはない。しかし、文書管理の基本原則については、しっかりと学ぶことができたと思う。