(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)
米中の対立が激しくなるなか、中国が米国の軍事力向上に対抗して自国の核戦力を大幅に強化し始めた兆しが米側の研究結果として報告された。
中国は「核兵器近代化」という政策標語の下に、核兵器を質と量の両面で増強し、長年の「核の先制不使用」の原則をも変える気配があるという。日本の安全保障にも影響を及ぼす重大な動きとして懸念される。
長年の核戦略を変えようとしている中国
米国ワシントンの安全保障に関する民間大手研究機関「戦略予算評価センター」(CSBA)は、5月中旬に発表した研究報告書のなかで中国の核戦略の変化を明らかにした。「中国は長年の守勢的な核戦略を変え、核兵器の量と質を大幅に増強し、攻撃能力を高める兆しがある」という骨子である。
「第2核時代の戦略相互関係の理解」と題された同報告書は、CSBAの現所長で米国歴代政権の核戦略を担当してきたトーマス・マハンケン氏ら計4人の専門家により作成された。米国、ロシア、中国などの核保有国の核戦略の現状と展望を詳細に分析する内容となっており、とくに中国の核戦力の変化に重点が置かれた。中国部分の研究では、CSBA上級研究員で中国の戦略研究の権威トシ・ヨシハラ氏が主体となったという。
同報告が中国の核戦略研究に力を入れた理由は、米中関係が険悪化するに伴い、米国にとって中国の軍事戦略が大きな警戒対象となったことが挙げられる。加えて、中国の核戦略に変化の兆しが確認されたことも大きな原因となった。