ロシアは、オホーツク海を戦略原潜の聖域とするため、多数の水上艦艇を運用しているだけではなく、北方領土にも対艦ミサイル部隊を配備するなどしています。しかし、もしも返還した北方領土に日米の部隊が展開することになれば、戦略原潜を守る防御網に穴が開くことになってしまいます。

北方領土の地図(出所:外務省)

(2)ロシア太平洋艦隊への影響

 世界史で勉強した方も多いと思いますが、帝政ロシアは、冬期に凍らない不凍港を求めて、南下施策をとっていました。それは、ヨーロッパ方面だけに限りません。ウラジオストクを確保したのも、その一部です。

 現在のロシア太平洋艦隊は、北方艦隊に次ぐ戦力を保有していますが、前述のように米海軍には遠く及ばないため、外洋での活動は、それほど活発とは言えません。本来、海軍力は必要な時に遠方まで戦力を投射できることに価値があります。ところが、不凍港があっても太平洋の出口となる海峡が結氷してしまえば、砕氷船しか外洋に出て行くことができなくなります。狭い海峡が結氷してしまえば、潜水艦が安全のために浮上航行することも当然困難となります。そのため、不凍港だけでなく、結氷せず、安全が確保できる幅や水深がある海峡が必要になります。

 しかし、ロシア太平洋艦隊の基地は、日本列島とカムチャツカ半島、そして千島列島で囲まれたエリアにあるため、津軽海峡や対馬海峡などの日本周辺の海峡以外では、結氷せず、かつ安全に通峡できる海峡は、国後島と択捉島の間にある国後水道くらいしかないのです。

 ロシアとしては、もし北方4島、あるいは択捉島を除く3島を返還しただけでも、国後水道は、日米によって封鎖される可能性が高い海峡となってしまいます。

(3)米軍がイージスアショアを設置する可能性

 上記の2つは、以前から専門家が時折指摘してきたものです。

 しかし、近年の国際情勢において、北方領土の重要性と価値を考えるうえで新たに考慮しなければならない軍事的要因が出てきています。それは、北朝鮮の弾道ミサイルです。