辛口の政治評論家でさえ感嘆した。オバマ大統領が就任式で見せた、「宗教と政治」の料理の仕方はあまりにも鮮やかだった。

 1月18日の記念イベントから20日の大統領就任式まで、以下の3人の宗教家が公式に祈りを捧げた。

リック・ウォーレン牧師(キリスト教福音派)
ジーン・ロビンソン主教(米国聖公会)
ジョセフ・ローリー牧師(統一メソジスト教会)

 非常に乱暴なくくり方をすると「極右」と「ゲイ」と「黒人」の宗教家が祈祷に選ばれたことになる。特にウォーレン牧師とロビンソン主教の人選は賛否両論で、大きな論争を巻き起こした。

オバマは批判覚悟でウォーレン牧師を起用した

 ウォーレン牧師はカリフォルニア州にある巨大な福音主義教会、サドルバック教会の牧師だ。毎週日曜日には、平均およそ2万人の信者がウォーレン牧師の説教を聴きに集まる。彼はこの教会の創始者であるだけでなく、売上数3000万部以上という記録的ベストセラー、『人生を導く5つの目的』の著者でもある。福音派の信者のみならず、世界中に彼を「人生の師」と仰ぐファンを持つ、宗教界のスーパースターだ。

 しかしウォーレン牧師が公式の祈祷に選ばれたことが明らかになると、米国中で反発が沸き起こった。ウォーレン牧師は、熱心な福音派信者だったブッシュ前大統領と個人的に親しい。宗教色が強かった前政権との決別を祝おうとしていた米国人が、アレルギー反応のように反発したのである。

 さらに、ウォーレン牧師が同性婚に反対する立場を取り、同性婚を合法化したカリフォルニア州で法律廃案運動の先頭に立っていたことから、同性愛主義者とその支持者から猛反発があった。

 ロビンソン主教が記念行事で祈りを捧げることは、この状況を受ける形で発表された。ロビンソン主教は、キリスト教界史上初めて、ゲイであることを公表した主教である。また、初の非禁欲主義の主教でもある。彼はゲイのパートナーと長年一緒に暮らしてきた。あまりにも “特異” な存在なため、彼の人選も米国人を驚愕させた。

 メディアと国民のおおよその分析は、「同性愛主義に反対するウォーレン牧師の人選が予想以上の反発を招いたため、ゲイのロビンソン主教を起用することで批判を沈静させた」というものだった。その狙いがあったことは確かだろう。

 しかしウォーレン牧師を起用すれば、同性愛主義者たちから相当な反発があることは最初から想定されたことだった。それでもオバマ政権はウォーレン牧師に祈祷を頼んだ。そこには、もう少し込み入った福音派の事情が絡んでいた。