1.はじめに

 民主党が政権に就いて、一昨年(2009年)9月18日、総理直属の機関として内閣官房に国家戦略担当大臣(国務大臣)が統括する「国家戦略室」が設置された。

 この国家戦略室は、今後、政府の政策決定過程における政治主導の確立のために、「国家戦略局」に格上げされる予定である。

 昨年9月7日、我が国固有の領土である尖閣諸島の周辺で、中国漁船による警戒中の海上保安庁・巡視船に対する体当たり衝突事案が発生し、これに端を発する一連の事態が生起した。

 中国から仕かけられた我が国の領海(領土)・主権に対する極めて意図的かつ野蛮な挑戦に対して、国民は、我が国政府による危機管理の成り行きを固唾を呑んで見守った。

 しかしながら、結果は、国益を大きく損ない、国民の失望と怒りを買って、「外交上の歴史的敗北」や「外交史に長く残る汚点」との批判を招いた。

 民主党政権は、政治主導を高々と掲げながら、国家戦略を持ち合わせておらず、戦略的な問題解決の準備ができていない、と断言せざるを得ない惨状を露呈したのである。

 政権交代とともに、国家戦略室(局)を設置したものの、国家戦略がないのはなぜか――。この問いは多くの国民が抱いた素朴な疑問に違いない。

 そして、我が国の戦略性を高めるには一体どうしたらよいのか――。これもまた大きな課題として国民の意識を覚醒させたのではなかろうか。