(文:名越健郎)
米英仏3国が2018年4月14日に実施したアサド・シリア政権への巡航ミサイル攻撃は、昨年4月の米軍による巡航ミサイル攻撃よりも規模が大きく、英仏両国が参加したことに特徴がある。これに対し、ロシアは「主権国家への侵略」(ウラジーミル・プーチン露大統領)と激しく非難し、欧米との関係が一段と悪化した。前回との違いの1つは、昨年は国連安全保障理事会決議の採択で棄権した中国が、今回はロシアに同調したことだ。米国から貿易制裁を受ける中国がロシアと連携を強めるなら、わが国の戦略環境は一段と厳しくなる。
対立泥沼化は互いに回避
アサド政権が化学兵器を使用した疑惑が広がり、ドナルド・トランプ米大統領が制裁攻撃を予告してから実際の攻撃までに約1週間かかったが、この間、クレムリンでは米軍のロシア軍基地攻撃があるのでは――とパニックが起きたという。『ノーボエ・ブレーミャ』誌(4月14日付)は、「1962年のキューバ危機のような緊張が走った」と書いた。テレビの討論番組では保守派の学者らが、ロシアが報復攻撃をすべき米国の標的まで想定していた。
3月の英国での元ロシアスパイに対する神経剤襲撃事件で、欧米とロシアは外交官を相互追放するなど関係が険悪化した直後だけに、シリア攻撃で一触即発の事態も憂慮された。米英仏3国が化学兵器関連施設3カ所に対し、巡航ミサイル計105発を撃ち込んだ後、プーチン大統領は声明で、「主権国家への侵略行為で、国際法違反だ。化学兵器の使用は一切確認されていない」と厳しく非難し、国連安保理の緊急会合を求めた。
しかし、それ以上の緊張は回避された。米英仏軍はロシア軍施設は攻撃せず、仏軍は事前にロシアに攻撃情報を提供していた。ロシア側もシリアに持ち込んでいる最新の対空ミサイルS400を使用せず、報復措置もとらなかった。対立の泥沼化を防ぐ暗黙の了解が働いた模様だ。
ただし、ロシアのブログでは、外交官追放、シリア空爆と欧米にやられっ放しだとし、プーチン政権の「弱腰」を批判する書き込みが少なくない。
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