2017年、人文分野の上半期のベストセラーになったのがケント・ギルバート氏の著書『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社+α新書)だ。書籍の帯では「21世紀の『菊と刀』」と広告され、私が8月に書店店頭で確認した限りでは43万部を突破したという。
だが、その内容には“微妙”な部分も多い。書中では「儒教」の定義がなんら示されないまま、中国や韓国のネガティブなニュースの理由を「これは儒教のせいだ」と特に根拠なく言い切る記述が繰り返され、やがて中盤から先は「儒教」の話すらほとんど出てこなくなる(ちなみに同書で儒教の経典の引用は、序章で大修館書店の『論語の講義』からの孫引きが1回あるだけだ)。
また、ギルバート氏はアメリカ人のはずだが、なぜか書中では英語メディアをほとんど参照せず、『週刊文春』『週刊新潮』や『WILL』をはじめ日本の雑誌ばかりをさかんに引用している。書中で言及される他の識者も、櫻井よしこ、石平、青山繁晴・・・と国内論壇の保守系言論人ばかりだ。著者は外国人とはいえ、同書の内容は日本国内の排外主義的保守派の世界観をひたすら忠実に反映しているので、「アメリカ人ならではのアジア観」を知ることを期待して読むと面食らう。
恐るべき(?)日本侵略計画書の信ぴょう性は
そんな同書の176ページでまことしやかに紹介されているのが、1972年に発見されたという中国共産党の日本侵略計画を記したという文書『日本解放第二期工作要綱』(以下、『要綱』)である
日本語原文(の版のひとつ)はWikipediaから直リンクが貼られたこちらの個人サイトで読めるが、文書の概要を以下にも記しておこう。
・日本を「解放」してその「国力のすべて」を中国共産党の支配下に置き、党の世界解放戦に奉仕させることを目的とした中国共産党の文書。
・文書で記された「日本解放」の第一段階は日中国交正常化、第二段階は日本に親中国的な民主連合政府を成立させること、第三段階は日本人民民主共和国を樹立して天皇を戦犯として処刑すること。