「これからの時代、21世紀中盤には、何が主要産業となっているだろうか?」
この問いかけに答えることは難しい。

今から60年程前の高度成長期前、当時の先端産業は海運業や造船業、製鉄などの重工業であり、その後の自動車産業の成長や、コンピューターの時代を予測する者は少なかった。しかし産業構造は変化し、自動車産業、コンピューター産業が発展し、今ネットワーク関連産業へとシフトしてきている。
「50年経つと産業が変わるのは当然のこと。これから必要とされるのは、主要産業が変わっても対応でき、新たな価値の技術を創る作ることができる人材だ。平成30年度より新設される先進工学部が担うのはそういった人材の育成だ」と語るのは、神野健哉・先進工学部学部長。

日本工業大学 先進工学部 学部長 神野 健哉 氏

 

時代の変化に対応するベースを作る

 ロボティクス学科と情報メディア工学科からなる先進工学部は、機械、電子、情報等の工学技術を基礎に、ロボットや人工知能等の先進技術について幅広く学ぶ学部だ。
2学科を大まかに分ければ、ハードウェアに軸足を置く学びを提供するのがロボティクス学科、ソフトウェアに軸足を置く学びを提供するのが情報メディア工学科といえるが、「ハードウェアとソフトウェアの垣根はあいまいだ」と神野学部長は話す。
「AIやドローンなどは両分野にまたがるし、プログラミングの世界とロボットの世界は近接し、混ざり合い始めている。コンピューターウィルスなどは、ソフトウェアのロボットとも言える」という。

時代の変化は目まぐるしい。AIの台頭で、2045年までに今ある仕事の半分は消えるとも言われている。
「仕事がなくなることを恐れるのではなく、自らが新たな価値を持った仕事を創り出せば良い。ゼロから創り出すのは大変だが、既存の技術を組み合わせることで新たな価値を生み出すことができる」と神野学部長。
「先進工学部では、将来産業の中心になるかもしれないものを生み出すためのベースを教えていきたい」と話す。

ベースとは何か。伝統的な技術・工学理論を踏まえつつ、新たな価値を提案し、先進技術を創り出すための思考的素地を作ること。そしてその根底となる基礎学力だという。
 

自由な発想で価値を生み出す

 新たな価値を生み出すには、社会が何を必要としているかを理解することが不可欠だ。そのためには集団で自由な発想のアイデアを出し合うブレインストーミングが有効だが、
「入学当初は学生たちも慣れていない。PBL(Project Based Learning)教育を通じて1,2年次より議論を重ねていくことで、技術の基礎的知識や、お互いの役割をふまえて新たな価値を生み出すコミュニケーションの力が養成される」と神野学部長は話す。

先進工学部にはPBL型の科目が多いのが特徴だ。ロボティクス学科では1年次から「ロボット製作プロジェクト」が導入されており、情報メディア工学科では1年次から「フィジカルコンピューティング工房」、2年次から「メディアデザインプロジェクト」が導入されている。

近隣の自治体、NPO法人、特別支援学校と協力し、現場からのフィードバックを受けながらPBL型科目を進める学生もいる。
身体の動きを読み取るデバイス「キネクト」を応用した四肢に障がいを持つ子供たちのリハビリ・トレーニング支援システムを開発した学生もその一人。特別支援学級のフィードバックを受けながら、子供たちはゲーム感覚でこのシステムを使用することで、楽しみながら四肢の現存機能の維持ができるもので、テクノロジーの力でリハビリの概念を覆した好例だ。
その他にも、春日部市の花火大会用にトイレの設置場所を示すトイレアプリを作るなど、PBLを通じて「独創性的なアイデアをかたちにし、実施まで持っていく」訓練が早い段階から行われている。
 

「先進工学部」である意味

 「しかし、ただ独創的で面白いもののアイデアを出すだけならば先進工学部である意味はない。工学の理論・技術に裏打ちされた実現可能なアイデアを創出することを教えていきたい」と語る神野学部長。
ロボティクス学科では機械・電子・情報の基礎技術を学修し、情報メディア工学科ではプログラミング・情報工学の基礎技術を学修する。
「何か新しいものを創り出すためにはまず、今ある技術を使ってできることを見極めることが重要。そのためには、十分な基礎的技術力・知識が必要だ」という。

また、工学技術や理論の学びを支える基礎学力も重要だ。平成30年度より行われる教育システムの改革を通じて、数学・英語・物理といった共通教育科目について、個人の学力に合わせたクラス編成を導入し、基礎的な学力の底上げを図るのだという。

基礎技術を修得したうえで、科学技術の進歩や産業構造の変化に対応できる力、新たな価値観に基づく先進技術を創造・開発できる力を持った人材を育成する。
「アイデアを具現化できる技術者になってほしい」と神野学部長は熱を込めて語る。

 

<取材後記>

 取材の後にヒューマノイドロボット「ニコット」に会いに行った。台車に乗って構内を進んでくる「ニコット」には、まわりに大切に育てられているという存在感があった。
「ガチャガチャと動くものだけがロボットというわけではない」と話す神野学部長。
人間にも理解しやすい形をしたヒューマノイド型ロボットは今でこそ特別な存在だが、そのうち当たり前の存在になるのかもしれないし、逆に時代遅れになるかもしれない。
物理的に手に触れるものと仮想の世界を分けるものは何かと、考えれば考えるほど境界はあいまいになり、境界を越えた場所から生まれる新たな世界の可能性に不思議なときめきを覚えた。


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