当選直後から言われてきたことが、にわかに現実味を帯びてきた――。
ドナルド・トランプ大統領(以下トランプ)が弾劾裁判にかけられるかもしれない、ということだ。弾劾裁判は裁判所ではなく連邦議会上院で行われるが、まず下院の司法委員会が弾劾裁判を開くかどうかを決める。
そのためには、国民の声が醸成されなくてはいけない。そして司法委員会が調査を始めるべきかの決議案を採択させるところからスタートする。
最初からシステムの話で恐縮だが、実は米国ではトランプを大統領から引きずり下ろす動きがすでにある。複数の反トランプ派の市民団体はネット上で弾劾裁判を求める署名活動を始めている。
コミー長官解任前に96万5568人の署名
例えば「インピーチ・ドナルド・トランプ・ナウ(トランプを今すぐ弾劾せよ)」という団体は、5月13日時点で96万5568人の署名を集めている。
署名者の多くはFBIのジェームズ・コミー長官の解任ニュース以前にサインをしており、今後はさらに数字が増えるとみられる。
ここで注視すべき点は、「トランプ嫌い」の市民による感情的な動きだけではトランプを弾劾できないということだ。法的にトランプを罷免させるに足る十分な証拠と議論を尽くせるかが焦点になる。
トランプはコミー長官解任について、「コミー長官はいい仕事をしていなかったから」とホワイトハウスで述べた。この理由は説得力がないばかりか、解任を正当化できる言説になっていない。
別の理由として、ヒラリー・クリントン氏のメール問題の扱いが不適切だったこと、セッションズ司法長官とローゼンスタイン司法副長官がコミー長官解任を進言したことも報道されたが、後づけという印象を拭えない。
それよりも、FBIが選挙中のトランプ陣営とロシア政府の密接な関係を捜査していたため、トランプは捜査を止めさせるためにコミー長官を解任にしたとの見立てが最も整合性が取れている。世界中のメディアが伝える通りである。