そこには、「非正規雇用の待遇改善は待ったなしの課題であり、雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保するために、わが国の雇用慣行には十分留意しつつ、同一労働同一賃金の実現に踏み込む」という趣旨が書かれている。

 ここでのポイントは3つある。同一労働同一賃金の導入以上に非正社員の待遇改善が真の狙いであること、欧州の同一労働同一賃金を参考にするものの日本的雇用慣行の上に制度化すること、同一労働同一賃金の達成ではなく実現に踏み込むことを一義的な目標においていることだ。

 同一労働同一賃金が浸透されているとされるフランスやドイツは、職種別労働市場で、どの職務に就くかによって賃金が決まる。異なる職種への異動は少なく、職種ごとに技能を蓄積し、時には企業を移りながら、キャリアを形成していく。

 それに対して日本では、同じ企業の中で異動により職種が変わり、賃金は、社員の能力(職能)や年功に対して支払われ、転職は容易ではない。このような雇用慣行の違いにより、欧州の同一労働同一賃金を、日本にそのまま導入することはできない。

 そこで、「賃金を決定する要因が可視化され、公正である」ことこそが、各国の雇用慣行を超えた同一労働同一賃金の本質だととらえ、それを日本の非正社員の待遇改善に当てはめることが検討された。真の狙いに向け、欧州の同一労働同一賃金の換骨奪胎が行われたといえるだろう。

「同一労働」は判断できる、「同一賃金」から待遇改善を目指す

 職種別労働市場ではない日本では、「『同一労働』が判断できないため、同一労働同一賃金は実現できない」という意見を時々聞くことがある。しかし、実は、同一労働かを判断する基準は、完全ではないものの、ある程度は整備されている。

 非正社員の過半数を占めるパートタイマーに関する法律で、職務内容(業務の内容や責任の程度)、人材活用の仕組み(異動・転勤の有無やその範囲)、その他の事情に違いがなければ、正社員と賃金に不合理な差をつけることは、既に禁止されているのだ。パートタイマーの待遇向上は、男女差別の問題と相まって、古くから取り組みが行われており、2014年のパートタイム労働法の改正によりこのような規定が定められた。

 日本では、職務内容、人材活用の仕組み、その他の事情というのが、同一労働かを見極める基準となっている。しかし、同一労働同一賃金のガイドライン案はこれでは説明がつかない。そこに、今回の“同一労働同一賃金”のミソがある。