片岡氏は民主党政権の失業率低下は「悪い雇用改善」で、安倍政権の低下は「よい雇用改善」だという。だが、経済・生活問題を理由とする自殺者数は、図1のように完全失業率と強い相関がある。自殺率は2009年から下がり始め、自殺者数も約2万2000人に減った。リフレ派は「よい自殺」と「悪い自殺」があるとでもいうのだろうか。

財政再建が「財政デフレ」をもたらす

 こうしてリフレ派はあえなく退場したが、問題は代わりに何が出てくるかだ。ここでリフレ派が逃げ込むのが、財政拡大だ。「アベノミクスの金融政策がうまく行かないのは増税が悪い」という論法である。

 彼らは、ある意味では正しい。財政赤字をGDPの1%増やせば(乗数効果が1でも)GDPが1%増えることは自明だが、それは財政拡大が終わったら元の木阿弥で、政府債務だけが増える。だがリフレ派は「政府債務が発散しなければいい」という。

 これはもはやリフレ派ではなく、昔のケインズ政策への先祖返りだが、そこには金利が永遠に上がらないという前提が必要だ。今の0.01%以下という世界史にも例のない異常な金利が続く限り、今の政府債務は維持できるが、それは可能だろうか。

 長期金利が上がると普通は物価を抑制する効果があるが、他方では国債の利払いが増えて財政赤字が増え、財政の維持可能性が危うくなってインフレになる。このどっちの効果が大きいかは一概にはいえないが、基本的には投資家が日本政府を信用しているかどうかで決まる。

 普通に考えると、毎年50兆円近い財政赤字が出ているのに1100兆円以上の政府債務を返済するのは不可能だが、日本人は政府がいずれ何とかするだろうと思っているのだ。この予想が当たるかどうかは、財政赤字の動向をみれば分かる。

 日本の政府債務(GDP比)は主要国で最大だが、プライマリーバランス(基礎的財政収支)の赤字は減っている。これも基本的には2009年以降の景気回復のおかげだが、消費増税で財政収支が改善した。

 ところが皮肉なことに、財政赤字が減ると国債の安全性が高まり、投資家は国債を買うようになって長期金利が下がる。民間投資も減ってデフレになる。いわば財政デフレが世界的に起こっているのだ。

 これを脱却するには、政府が「借金を踏み倒す」といって通貨の信認を下げればいい、というのがクリストファー・シムズの物価水準の財政理論だが、これは大胆すぎて政治的には無理だろう。