1.相互確証破壊
安全保障の専門用語に相互確証破壊という言葉がある。2つの国がともに大量の核兵器を保有している場合、片方の国が相手国を核兵器によって先制攻撃すれば、相手国も核兵器による報復攻撃を行う。
最初の攻撃で相手国の核兵器を全滅させることができない限り相手国からの核兵器による報復攻撃を受けて、先制攻撃を仕かけた国も壊滅的な打撃を被る。
したがって、大量の核兵器保有国同士は、一方が核兵器で先制攻撃すると最終的には双方が壊滅的な打撃を受ける関係にあることを双方がともに確証する。これが相互確証破壊と呼ばれる概念である。
相互確証破壊の関係が成立している国同士の間では理論上は直接的な軍事衝突が発生しない。これが核抑止力と呼ばれる核兵器配備の重要な目的の1つである。
2.米中両国経済は相互確証破壊の関係が成立
米中両国の経済関係を見ると、この相互確証破壊と似たような関係が成立しているように見える。
もし米国が中国に対して、中国からの輸入品に対する関税の大幅な引き上げ、あるいは、為替操作国と認定したうえでの制裁措置発動といった経済戦争を仕かければ、中国も米国に対して報復する。
米国企業の自動車、パソコンなどの不買運動、米国系スーパー・百貨店に対する焼き討ち・投石、米国系コンサルティング企業・会計企業・弁護士事務所などに対する中国政府関係機関・国有企業の入札参加リストからの排除などが考えられる。
いずれも尖閣問題発生直後に日本企業が直面した問題である。
日本企業の場合、尖閣問題発生後のこうした不買運動などによる被害は大半の企業にとって2~3か月、長くても数か月でほぼ沈静化した。
加えて、各地方政府は地域の雇用と税収の支えとして貢献の大きかった日本企業を必死に引き留めたこともあって、尖閣問題で日本企業が大量に撤退を迫られることはなかった。