(文:鰐部 祥平)
作者:フィオナ ヒル 翻訳:濱野 大道
出版社:新潮社
発売日:2016-12-12
ウラジミール・プーチンという政治家は多くの謎に包まれた男である。ユーラシア大陸にまたがる大国を長年にわたり統治し、欧米の価値観や政治スタンスとは一線を画す事により、周辺地域に大きな影響力を与え続けてきた。
この男が何を考え、どのような世界観を持っているのか。大国ロシアを動かすプーチンを知ることは、明日の世界を知るために欠かすことのできないことである。
しかし、プーチンという人物を知るには多くの困難が伴う。なぜなら、クレムリンが発するプーチンの情報は戦略に基づいて構築されたものだからだ。プーチンは自らの情報を巧みに操作する事により、西側諸国の政治家を翻弄してきたのだ。
著者であるアメリカのアナリスト2人は、そんなプーチンの情報のベールを周辺人物の取材や、オープンソース情報を丹念に解析する事により、パイの薄皮を一枚、また一枚と剥ぎ取るような慎重さでその実態に迫ろうとする。
プーチンの6つのペルソナ
本書『プーチンの世界 「皇帝」になった工作員』は二部構成になっており、第一部はソビエト崩壊により大混乱に陥ったロシアの状況と、それをコントロールする事ができなかったエリツィン政権の失態の中でプーチンが何を経験し何を考えたかに迫る。そして彼が生い立ちとキャリア形成の途上で獲得してきたペルソナを六つに絞り、その一つ一つを細かく分析していく。そのペルソナを基にして築かれたプーチンの統治システムの細部を見ていく。