ウラル山脈は中学の地理でアジアとヨーロッパの境界として紹介されるので、名前を聞いたことある方は多いだろう。このウラル山脈は文字通り宝の山である。金、銀、プラチナ、エメラルド、トパーズ、孔雀石など、多くの貴金属や宝石を産出してきた。

 この宝の山はただ直接的に財宝を生み出しただけでなく、工業を発展させ、ウラル山脈周辺はロシアの中でも最も工業が進んだ地域になった。宝の山の恵は姿を変えて発展し、現在の企業活動に恵をもたらしている。

 ウラル山脈が宝の山であることは欧米ではよく知られ、欧米企業のこの地域での活動は大変活発である。宝の山ウラル山脈と山の恵がどのように享受されているかを語りたい。

文字通りの宝の山ウラル山脈

 モスクワのクレムリンの中にダイヤモンド庫と呼ばれている場所があり、ロシアの誇る財宝が展示してある。宝石に埋め尽くされたきらびやかな工芸品もすごいのだが、ロシアで産出した金、プラチナ、ダイヤモンドが並べてあるコーナーも、そのぶっきらぼうな並べ方が印象深い。

 一抱えもあるようなサイズの金やプラチナがゴロゴロ、大粒のダイヤモンドがジャラジャラという感じである。こうしたものは1つあれば十分ありがたいのであるが、まるでいくらでもあるので、たくさん並べているかのようだ。

 この大粒というか、ゴロゴロ置いてある大きな塊の金やプラチナの産地がウラル山脈なのである。帝政時代はロシアの金やプラチナの産地と言えばウラルだった。帝政時代のプラチナ貨には“ウラルのプラチナ“と刻印されている。

ウラル山脈から産出した自然金。ウラル地質博物館に展示されていたもの。最大36kgのダイヤモンド庫の金にはかなわないが、握りこぶし大はあった

 金やプラチナだけでなく宝石も産出する。エメラルド、トパーズ、アレキサンドライト等種類も多い。ロシアの宮殿にある孔雀石の柱や工芸品もウラルの孔雀石でできている。ウラル山脈はロシアのきらびやかな宮殿に展示されている豪華なロシアの財宝に、原材料を供給してきたと言っていいだろう。

ウラル山脈のエメラルド。ウラル地質博物館に展示されていたもの。スイカくらいのサイズであった

 ウラル山脈から産出するものは金銀財宝だけではなく、鉄、銅、鉛、亜鉛、クロム、マグネシウムといった工業に不可欠な資源も産出する。ウラル山脈は文字通りの宝の山であっただけではなく、こうした資源を金属にし、さらに工業製品にする産業化が帝政時代から進んでいた。一時期、ヨーロッパで使用され鉄の産地のトップがこの地域であったと聞く。

 現在でもウラル山脈で金やプラチナの採掘は行われているが、金はロシアの別の産地でも大規模に採掘されるようになり、プラチナの大産地の地位はシベリアの別の宝の山に移行した。

 ロシアの工芸品として有名な孔雀石細工はアフリカから輸入した孔雀石を使うようになった。他の金属においても、必ずしもウラルのみがロシアの大産地であるわけではない。しかし、工業化したという宝の山の恩恵は今でもしっかり残っている。