何かに抗うためには、強い意志が必要だ。その強さに、僕は惹かれることが多い。
権力、宗教、大企業。今回紹介する3冊では、一個人が、強大な存在に抗う様が描かれていく。桃太郎にしてもエヴァンゲリオンの碇シンジにしても半沢直樹にしても、僕らは、とてつもない大きな存在と闘う個人の物語が好きだ。
現実には、多くの個人が、さまざまな理由で、その闘いに敗れてきたことだろう。歴史に残ることのなかった多くの個人が、抗う強さを持ちながら、抗い続けることができなかった過去が、人目につかない場所で積み重なっているのだろうと思う。
そういうことを知った上でなお僕は、こういう物語に惹かれる。ごく稀な例外的な奮闘だと分かっていてもなお、彼らの闘いぶりに惹きつけられてしまう。
多くの人が人生の中で、乗り越えなければならない壁の存在にぶつかることだろう。そこで諦めて迂回する生き方を、僕は決して否定しない。そういう生き方が正しいことだって多々あるだろう。
しかし自身の内側には、抗う意志を残していてもいい。実際に抗えなかったとしても、その意志を強く持っておくことが、何かの扉を開くきっかけになることだってある。抗う個人の奮闘を知ることは、その意志を持つための準備となるだろう。
NFLの闇に挑んだ1人の医師
『コンカッション』(ジーン・マリー・ラスカス著、小学館)
アメリカにおいてフットボールは、まさに国民的なスポーツと言っていい。離婚の際、シーズンチケットの所有権で揉めるほど、この国ではフットボールが生活に根付いている。激しいぶつかり合いが観客を熱狂させ、トップクラスのフットボーラーは国民にとって英雄となる。
そんなフットボールの世界を束ねるのが、NFL(National Football League)だ。独占放映権を有し、さまざまな形で年間80億ドル以上も叩き出す巨大組織。その甘い汁を吸おうと群がる人間にとって、NFLというのは大きな利権の1つだ。
そのNFLに、結果的に噛みつくことになった1人の青年がいる。ベネット・オマル。ナイジェリアからやってきた、医学の分野で複数の学位を有する実に優秀な医師だ。彼は、監察医としてスター的存在の上司、ウェクトとの出会いによって、そしてピッツバーグの遺体安置所を起点として、アメリカンドリームを体現する有名な監察医になっていく。
ある日ベネットは、これまで誰も発見したことがない、死者の脳の中のある異変を見つけた。