散歩が好きだ。
仕事の合間にときどき散歩するのではなく、散歩の間にときどき仕事したい。そのぐらい好きだ。
仕事が嫌いなだけではないか、という意見もあろうが、仕事どころか生活そのものも散歩の合間でいいぐらいである。
なので常に散歩の機会をうかがっている私なのだが、最近どうも調子が出ない。あるとき、どこかへ散歩に出かけようと考えて、行先を思いつかなかったのである。行先なんてどこでもいいのに、思いつかなかった。
・・・飽きた。
そう思ったのだった。
よくよく自分の胸に尋ねてみると、どうやらずいぶん前から心の奥にくすぶっていた感情らしい。それが我慢の限界を越えて溢れ出てきたのである。
散歩に飽きた?
好きだと言ったばかりなのに、おかしな話じゃないか。
いや、相変わらず散歩には行きたいのである。だがどうもこのままではワクワクできそうにない。つまり散歩の内容が物足りないのだ。
たまに雑誌なんかを見ると、最近の散歩は、路地を歩いて奇妙な看板を発見したり、マニアックな喫茶店を訪ねたり、ちょっと変わったグルメを探し当てたり、古い建物を見てしみじみ味わうというような「しみじみ」方面に重きが置かれていて、自分も散歩とはそういうものだと思うようになっていた。