ドネツク市中心部のレーニン像 (2016年2月、筆者撮影)

 2015年2月12日、ベラルーシの首都ミンスクにおいて、いわゆる「ミンスク合意(ミンスク合意履行に関する複合的措置)」が調印された。

 ウクライナ危機後、東部ドンバス地域に誕生したドネツクおよびルガンスク両人民共和国はロシアからの軍事的支援を受け、ウクライナ軍をデバリツェボで撃破、戦闘激化を懸念したフランス、ドイツが仲介に入る形で合意文書が作成された。

 この合意文書にウクライナ、ロシアおよびフランス、ドイツ首脳が調印、人民共和国首脳も肩書きなしでサインした。合意から1年が経過した今日、大規模な戦闘は生じていないが、多くの合意事項はほとんど履行されていない。

合意の履行状況

 ミンスクにおける交渉ではロシアのウラジーミル・プーチン大統領が主導権を取ったが、その狙いは、決して人民共和国の独立をウクライナ、欧米に承認させようとするものではなく、逆に、ウクライナの主権・領土保全を認めたうえで可能な限りの権利をこの地域に付与させることにあった。

 全13項目からなるミンスク合意内で、ウクライナ側は「年金等の支出の再開」(第8項)を約束したが、履行されないどころか後退している。

 2016年に入り、人民共和国内に住む住民(人民共和国は法的には存在しないため、彼ら住民は「ウクライナ国民」である)が、ウクライナ側に越境しても、年金を受領できなくなっている。銀行システムの回復(同8項)も履行されていない。

 現在、人民共和国において商業銀行は営業しておらず、自動現金支払機すら機能していない。そのため、域内企業活動の大きな足枷となっている。

 ウクライナ法に基づく域内地方選挙の実施(第12項)は、人民共和国がウクライナ法空間下にあることを示す重要な条項であるが、こちらも選挙実施の目途は立っていない。最も容易と思われていた拘束者の釈放・交換(第6項)でさえ、遅々として進んでいないのが現状である。

 本合意の最大の難関は、地方分権化を伴うウクライナ憲法改正(第11項)である。

 憲法改正は平行線を辿っている。ミンスク合意が規定するような「ウクライナ・人民共和国間の協議・合意」はなされず、ウクライナ側はドンバス限定の「特別な地位」を避けて一般的な地方分権の枠内で処理しようとしている。