韓国・ソウル市内のサムスン電子本社(右)

 韓国のほとんどの財閥の役員人事は年末に集中している。1年間の実績と事業の先行きを勘案して決まる。役員数が2000人に達するサムスングループは、危機対応型の「縮小人事」となったが、別の見方もある。

 2015年12月3日、ソウルは前夜から雪が降り続き、積雪量が6センチになった。出勤すると、サムスングループのある役員からこんな内容のメールが届いていた。

雪の日の退任・・・

 「二十数年間勤務した会社を離れることになりましたのでご挨拶申し上げます。これまでのご声援を心から感謝いたします。思えば、××年前に管理職になって地方勤務なった日も雪でした。そのとき、挨拶に行った取引先の方から『雪が降る日の異動ですね。この先きっと良いことがありますよ』と言っていただきました。今日、こんな挨拶をお知らせする日も、外では雪がしんしんと降っています。この先も良いことがあればという心境です・・・」

 これより3日前の11月30日の月曜日朝。サムスングループは、役員人事の発表を控えて退任者に対する「通告」を始めた。

 グループ各企業の社長、あるいは人事担当役員が「退任者」に対してその事実を告げる。

 社長から直接、詳細に説明を受けた役員、人事担当役員から事務的に通告を受けた役員。何となく雰囲気を察した周辺の部下たち・・・。この日は、サムスングループの中でさまざまなドラマが繰り広げられた。

 ある役員はこんな話をした。

 「4日金曜日の朝が役員として最後の出勤となった。朝、いつも通り6時に運転手さんが来て会社に向かった。車を降りようとしたら、運転手が『これを・・・』と言って、車のキーを渡された。ああそうなんだ。来週からは自分で運転して会社に行くんだと、ちょっと考えさせられた」

 この役員の場合、退任後も「常勤顧問」になる。運転手さんは来なくなるが、会社がそのまま車を支給する。

後部座席から運転席に

 先週まで後ろのシートに座っていたのが、同じ車の運転席に座ることになるのだ。

 サムスングループは、12月1日に社長級人事、4日にその他役員人事を発表した。

 「信賞必罰」をモットーとしてきたサムスングループだったが、今年は、ちょっとした「優しさ」があった。

 というのは、昨年までは、役員人事は本人に発表前日の夕方に通告した。

 昇格者は良い。だが、退任者は大変だ。日程調整、執務室の整理、さらに何よりも心の整理をつける時間などまったくなかった。