何としてもシリアのバッシャール・アル=アサド大統領を政権の座から降ろしたい――。
これは米バラク・オバマ大統領の本音だけでなく、シリア国内の反政府勢力やヨーロッパ諸国のリーダーたちの共通する希求と言えるだろう。
シリアから未曾有の難民が他国へ流出した原因の1つは、アサド政権による圧政にあった。政府軍と反政府勢力との戦闘の激化もあるが、アサド政権が自国民を殺傷してきたことは疑いようのない事実である。
そのため反政府勢力だけでなく、アサド大統領を政権の座から引きずり下ろすことに反発する人は少ないかにみえる。だが1人の米連邦下院議員がアサド政権打倒に反旗を翻した。民主党タシル・ガバード連邦下院議員だ。
CIAがアサド暗殺を計画
11月19日、共和党オースティン・スコット下院議員と超党派で、米政府によるアサド政権打倒の活動を中止させる法案を提出したのだ。ガバード議員はオバマ政権が中央情報局(CIA)を使ってアサド政権を転覆させる動きをつかんでいた。
オバマ政権誕生以来、米国は特殊部隊の増員をしており、正規の陸上軍を派遣する代わりに少数派の特殊部隊による作戦を取るようになってきている(「世界の警官から秘密警官へ、米国の恐ろしい急変ぶり」)。
CIAは2013年以来、1万人以上の反政府勢力に軍事訓練や武器の提供をしてきたとの情報があるが、効果は上がっていない。ガバード議員は「米国が予算をつぎ込めばつぎ込むほど効果は逆」と述べているほどで、オバマ大統領に中止を直訴する形となった。
ガバード議員はハワイ州出身で下院軍事委員会と外交委員会のメンバー。イラク戦争に2度従軍した経験がある帰還兵で、軍事問題を専門にしている。
CIAやその他の諜報機関、さらに特殊部隊による秘密裏の軍事活動は議会から承認を受ける必要はないが、ガバード議員は軍事委員会に所属していながら報告を受けていないと述べる。
「米国はいまシリアの2つのことを同時進行させているのです。1つはイスラム国や反政府勢力を叩くこと。彼らへの空爆は大きな効果を上げていませんが、議会が承認したことです」
「もう1つがアサド政権を倒すということです。本当にアサド政権を倒した場合、シリアはイスラム国や反政府勢力によって支配されてしまいます」
「難民問題はいま以上に拡大し、人権問題はさらに悪化し、世界にとってはこれまでにない脅威となります。米議会はアサド政権打倒を承認していません。いや政権打倒は違法なのです」