「恐怖、利己心(利益)、名誉」で動く国際社会
国家の自己認識は、個人も同じであるが、他国との比較(相関関係)あるいは相対性の上でなされ、自己実現を図って行く傾向が強い。
古代アテネの歴史家ツキジデスは、その不朽の名著『戦史』の中で、国家を動かす「恐怖、利己心(利益)、名誉」の3つの属性を指摘した。
これらの属性が絡み合い、相互作用することによって、常に他国に対する優越を求めようとする力が働くため、絶え間ない摩擦・軋轢や衝突・紛争の世界を生み出してきた。特に、大国間にあっては、覇権獲得の激しい争いが繰り返されてきたのが人類の歴史である。
『大国政治の悲劇』(奥山真司訳、五月書房)の著者である米シカゴ大学教授ジョン・ミアシャイマーは、オフェンシブ・リアリズム論の提唱者として知られる。
その著書によると、国家を超越する権威を持たない無政府状態の国際社会では、国家は互に「恐怖」の認識を強く持ち、その中で生存を確保しようとする大国は現状の勢力均衡に満足せず、覇権の最大化を目指すと説く。
前掲書には、「米中は必ず衝突する!」との刺激的なサブタイトルが付けられているのも、そのことを意味している。
今日の国際社会では、「名誉」ある大国の地位を確立し、優越を求めようとする米国、中国、そしてロシアの3か国の存在が際立っており、これらの相関関係が今後のアジア太平洋・インド地域さらには世界の情勢を左右する基本要因である。
単純化すれば、上図のように米中間は対抗から対立に向かいつつある、との認識が高まっている。欧州では、ウクライナ問題をきっかけに欧米(NATO=北大西洋条約機構)とロシアの対立が鮮明となり、長期化するのではないかと懸念されている。
その中で、中露は、現在、協調・連携を保っていると見なされているが、果たして今後、両国の関係が現状維持で推移するのか、あるいは変容して行くのか、その行方が本地域の将来の方向を決めるキー・ファクターになるは間違いなさそうだ。