パリのテロ事件の後、ドイツで、データ保存の議論が再燃している。誰が、いつ、誰と、どれぐらいの時間、メールや電話で交信したかというデータを、プロバイダが保存するべきか、するべきでないかという問題だ。

EUの通信データ保存要綱に背を向けたドイツ

 2004年、スペインのマドリード市内で、駅や電車の10カ所で爆弾テロが起こり、191人が死亡、2000人以上が負傷するという事件があった。その翌年は、イギリスのロンドンで、やはり地下鉄の駅3カ所とバスを狙った同時爆弾テロで、56人が死亡した。

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1月にパリで起きたテロ事件で、ユダヤ系食品店に突入する警官隊〔AFPBB News

 このあと2006年、EUでは特別委員会が設置され、テロリストの特定、市民の安全という観点から、通信データは最低6カ月保存することが望ましいという要綱が決められた。

 このEUの要綱に基づき、ドイツでは、2008年1月より、犯罪捜査、治安確保、秘密警察の職務に必要な時だけ利用するということで、6カ月間のデータ保存が義務付けられた。

 ところが、国民のあいだでは、プライベート領域の監視であると反対する人が多く出て、この法律の違憲審査が申請された。

 その結果が出たのが、2010年3月。最高裁(憲法裁判所)は、こともあろうに、同法の無効を決定した。そして、ドイツで各プロバイダが保存していた更新履歴データは、この時、すべて破棄された。以来、ドイツでは、警察がどんなに知りたくても、通信履歴は何も残っていない。

 この最高裁の判決は、データ保存自体を否定したわけではなかった。何の疑いもないすべての人のデータを保存することは違法だが、容疑者の交信なら保存しても良いというものだ。

 しかし、実際問題としては、誰が容疑者かがわかってからデータを保存しても遅い。警察は、容疑者となった人間の過去の通信履歴を知りたいのだ。

 容疑者が、いつ、誰と、どんな連絡を取り合っていたかがわかれば、それが捜索の大きな手掛かりとなる可能性は高い。今、警察は、データ破棄という壁の前で、まことに歯がゆい思いをしている。