「産経新聞」(27.1.16)が「東大、軍事研究を解禁」と報じ、東京大学総長は同日付で「東京大学における軍事研究の禁止について」という告知を出した。

「イスラム国」イラクとシリアに2万~3万1500人、米CIA

イスラム国を攻撃するクルド人自治政府の治安部隊ペシュメルガの戦闘員〔AFPBB News

 伊東乾氏はJBpressで、「軍事研究解禁報道に学内騒然の東京大学 ガイドラインが曖昧なままでは諸外国に悪い影響も」を上掲。NHKも1月21日の[首都圏ニュース845]で、職員組合などの動きを伝えた。

 折しも、日本人がイスラム教スンニ派の過激組織ISIL(イラク・レバントのイスラム国=Islamic State of Iraq and the Levant)に拘束された。善意の行動であっても、日本(人)の「安全」が脅かされることが明確になってきた。

 各党幹事長によるNHK日曜討論ではこの事案を踏まえ、邦人救出も議題になった。しかし、邦人「輸送」しかできない法律にこそ問題があるという話にはならなかった。

総長告知から読み取れること

 総長告知は700字そこそこで、「学術における軍事研究の禁止」は「東京大学の評議会での総長発言を通じて引き継がれてきた、東京大学の教育研究の最も重要な基本原則の一つ」と述べる。そして、「この原理は『世界の公共性に奉仕する大学』たらんことを目指す東京大学憲章によっても裏打ちされている」と、東大の伝統的な原則であることを示す。

 そのうえで、日本国民の安心と安全に東大は大きな責任を持ち、その責任は「何よりも、世界の知との自由闊達な交流を通じた学術の発展によってこそ達成しうる」とし、軍事研究が「そうした開かれた自由な知の交流の障害となることは回避されるべきである」と、軍事研究に潜む危惧に言及する。

 ただ、「軍事研究の意味合いは曖昧であり、防御目的であれば許容されるべきであるという考え方や、攻撃目的と防御目的との区別は困難であるとの考え方もありうる」と現実を直視し、「過去の評議会での議論でも出されているように、学問研究はその扱い方によって平和目的にも軍事目的にも利用される可能性(両義性:デュアル・ユース)が、本質的に存在する。実際に、現代において、東京大学での研究成果について、デュアル・ユースの可能性は高まっていると考えられる」と述べる。