平成21(2009)年度に改定されるはずであった新たな情勢に基づく「防衛計画の大綱」は、新政権により1年先送りされた。

海上自衛隊のやせ我慢もそろそろ限界に

普天間移設先に「辺野古」明記、日米共同声明を発表

普天間基地を巡る問題では民主党や政府は何を学んだのだろうか〔AFPBB News

 鳩山由紀夫前首相は普天間問題で安全保障に関する勉強不足を自ら露呈したが、最高指揮官がこれでは、多くの国民が国の安全に不安を覚えたはずだ。

 この1年間に新政権は果たしてどれだけのことを学んだのであろうか。一方、サイレントネービーの伝統を受け継ぐ海上自衛隊は自らを語ることが苦手である。

 厳しい現場に対してもやせ我慢を奨励する体質がある。観艦式などで紹介される海上自衛隊の姿は、そのほんの一面を表しているにすぎない。

 しかも、出港すれば数時間で水平線に姿を消す護衛艦部隊は、どうせ理解されないと半ばあきらめている。しかし、これでは正しい姿は国策に反映されないだろう。

 そこで今回は、少しでも多くの方に理解していただきいとの思いから、海上自衛隊の、特に護衛艦部隊の厳しい現実を紹介したい。

 筆者が護衛艦隊司令官を最後に退官したのは3年前である。現実と言いつつもその当時の記憶が中心になるが、その後、中国艦隊の堰を切ったような太平洋進出、韓国哨戒艦「天安」沈没と北朝鮮潜水艇の魚雷能力およびロシア海軍復活の兆しに現場はさらに厳しさを増しているものと思われる。

1. 我が国周辺の安全保障環境

 我が国周辺には、米国、中国、ロシアの軍事力が指呼の間に存在し、北朝鮮という火薬庫に手を焼きながら、当事国は虚々実々の駆け引きを繰り広げている。

 表面的にはまさに北朝鮮を取り巻く緊張であるが、どの国にとっても現状維持が最善である以上、小競り合いが起きたとしても第2次朝鮮戦争に拡大する可能性はきわめて低い。

 実は、極東の安全保障の観点から最も留意すべきは北朝鮮ではなく、着々と軍事力の増強を図る中国である。とりわけ中国海軍は、30年後に米海軍と対等な海軍を建設するという遠大な計画を有していると言われる。

 これを裏づけるように中国海軍の増強、近代化は目覚ましく、中国海軍は極東における米中の軍事バランスを壊しかねない存在になりつつある。

 最悪のケースは、台湾が中国に吸収され、与那国島から次々と宮古島までもその勢力圏に取り込まれてしまうことである。

 その時、尖閣周辺に埋蔵される1000億バレルを超えると言われる石油の帰趨は、もはや言うまでもない。