菅直人首相が韓国に対して謝罪した。日本が朝鮮半島を併合した過去を「悪」として謝ったのである。8月11日のことだった。だが、その余波はなお広がっている。

 「植民地支配がもたらした多大の損害と苦痛に対し、改めて痛切な反省と心からのおわびを表明する」

 日本の総理が謝罪するということは、日本という国家が謝罪したことになる。さらには日本国民が韓国に謝ったことにもなる。

 だが、今の日本国民がなぜ日韓併合の責任を問われるのだろう。そもそも日本の朝鮮半島の領有は、当時の国際的な条約や規範に沿って実行されたものだ。

 正当な国際取り決めとして当時の世界で認められたのである。それを今になって「不当」と見なし、「罪悪」と断じて「おわび」をする。不可思議なことである。

戦争に関して対外的に謝罪することは「危険」

 この菅首相の謝罪のように、国家が他の国家や国民に対し「謝る」という行為は国際的に見るとどう映るのだろうか。米国ではどう認識されているのか。

 首都ワシントンでは、今もなお日本の戦争行為の各部分をとらえて糾弾し、「日本は反省をしていない」「日本はまだ謝罪を十分にしていない」と詰問する向きもある。

 しかし「日本はもう謝罪をすべきではない」とする意見も確実に存在する。日本の謝罪に反対する識者たちが米国にいるという現実は、日本側でも認知されてしかるべきだろう。

 2009年5月には、大手外交政策雑誌「フォーリン・アフェアーズ」に「謝罪の危険」という論文が発表された。同論文は日本に対し、戦争に関して対外的に謝罪をすることはもう止めるよう訴えていた。タイトルから明白なように、謝罪は危険だというのだった。

 筆者はダートマス大学助教授のジェニファー・リンド氏、日本と朝鮮半島の歴史や安保を専門とし、2004年に博士号を取得した新進の女性学者である。その論文の主要なポイントは以下のようなものだった。