7月6日。『ABUデジスタ・ティーンズ』に初めて参加することになったカンボジアで、これまた初のデジスタ用ワークショップを行うことになった。
このワークショップは、各国のデジスタ参加学生・生徒たちに、彼らの映像作品を作るのに必要なツールやソフトウエアの使い方を教える、いわば「映像基礎講座」である。このプロジェクトに参加するアジア各国の主催テレビ局は、ワークショップを開催するのが参加条件の一つなのである。
ワークショップの取材に来ることになったNHKの意図
ABUデジスタの参加者たちが作る映像は、「デジタルアート作品」であることが条件付けられている。よって、ワークショップには最低限でも参加チーム数分のコンピューターが用意されていることが必要である。
ところが、カンボジアの主催テレビ局である我が国営テレビ局は、参加チーム数分である8台のコンピューターすら用意することができない。そもそも、国営テレビ局副局長の“殿様”が率いる情報教育番組部約20人のスタッフに与えられているコンピューターはたったの4台だ。
この4台で毎日放送している朝の情報番組と、毎週放送しているレギュラー番組1本と、それにもろもろの書類の作成などまでやっているのである。当然、無理な話なのだ。そこで、カンボジアのメンター(映像指導者)を引き受けてくれた中村英誉さんのオフィスを借りることにした。
中村さんのオフィスは、中村さん率いるデザインや映像を作る部門とIT部門があり、数十名のスタッフ分のコンピューターが用意されている。ワークショップは日曜日の開催なので、オフィスは休みである。中村さんも快く受けて下さり、まずは最大の難関はクリアだ。
そして、なんと、このカンボジア初のワークショップをNHKが特別に取材に来ることになったのである!
しかも、中村さんが2Dアニメーション専門であるため、殿様が期待しているコマ撮り(静止している粘土や紙の造形物を少しずつ動かしながら、1枚ずつ写真を撮影し、表現してゆくアニメーションの手法。原理はパラパラ漫画)の指導ができないと知ったNHK側が、青木純さんというコマ撮りを手がけるクリエイターをこのワークショップの特別講師として連れてくる、ということにまでなった。
ところで、こうした場合、「日本のメディア」であるNHKには別の意図もある。
つまり、カンボジアという国と人々、そして参加する若者たちの創造性がどんなものなのかを、青木さんという初めてカンボジアを訪れる日本人クリエイターの目を通して番組として表現する、つまり、青木さんはもちろん特別講師ではあるけれど、テレビ的には、視聴者の代わりにカンボジアを体験する「媒介者」でもあるということなんですね。