アベノミクスの目玉は大胆な金融緩和によって為替を円安に導くことであったが、そこまでは成功したとしてよい。円は1ドル80円付近から100円台にまで下落した。

 その結果、トヨタ自動車など海外での生産が多く、海外で得られた利益を日本に送金している企業は大幅に利益を伸ばすことができた。だがその一方で、石油など輸入品の価格は高くなった。海外で生産している企業が潤い、輸入品を消費する人々が損をした。

 もちろん、アベノミクスはこのようなことを目的にしたものではない。円安によって輸出が増えることを期待したのだ。輸出が増えれば国内メーカーが儲かり、そこで働く人の給与も上がる。彼らが消費を増やせば、その効果は飲食業などにも及ぶ。アベノミクスによって輸出が増え景気が良くなると考えたのだ。

 しかし、輸出は思うように伸びていない。円安になった最初の頃は、企業が生産を増やすには時間がかかる(Jカーブ効果)と説明されていたが、1年以上が経過しても輸出は増えていない。ドルベースで見ると、円安になった2013年の輸出額は2012年を下回っている。

 2014年4月の消費増税によって消費は大幅に落ち込んだ。それは夏頃までには回復すると言われていたが、夏が過ぎても落ち込んだままである。政府やエコノミストは、その原因をこの夏の天候不順に求めているが、真の原因は所得が増えないことにある。

 アベノミクスによって輸出が増加し、それによって長い間低迷していた企業業績が回復して、給与も増えるはずであった。しかし、輸出が増えないから業績は低迷したまま、給与も上がらない。それなのに輸入物価が上がり、それに消費増税が追い打ちをかけたのだから、消費が低迷することは当然だろう。

80年代後半の日本を上回る中国の輸出額割合

 なぜ、輸出は増えないのか。実は、それは日本人が最も認めたくない理由によって生じている。恐ろしいことが進行しているのだ。