今年も猛暑、台風・水害に見舞われた日本列島、異常気象や気候変動といった言葉が日常化しているが、その影響が顕著に現れているのが北極海である。

暑い夏と北極海

北極海氷喪失とCO2排出、2012年は過去最高を記録 国際報告

宇宙からみた北極海〔AFPBB News

 一部関係者以外にはあまり注目を集めない北極海であるが、驚異的な勢いで氷が減少している。2012年9月には人工衛星による観測開始以来最低の結氷域面積を観測、これは過去30年平均の約50%という記録的な減少であり、今年も平年以下の水準で減少しつつある。

 2012年の記録的な減少を踏まえたシミュレーションでは、2020年夏にも氷に閉ざされない北極海となる可能性があるという。

 このまま融氷が進めば、北極海がまさしく「海」になるという地政学的な大変化が生じる。もちろん、これは夏季の状況であり、実際には年間を通じての船舶の自由航行が簡単にできる状況ではないし、船舶の運航にはいまだ多くの問題がある。

図1:北極海氷結面積の推移(出所 :National Snow and Ice Data Center

 

図2:長期的な減少傾向(出所 :National Snow and Ice Data Center

 しかし、関心を寄せる国々はその日に備えた活動を活発化させている。北極海は資源開発や環境問題、そして安全保障上の観点から国際社会の注目を集める地域となりつつある 。

過熱する北極海・・・資源、航路、安全保障

ヤマル油田のある北極海に突き出たロシアのヤマル半島

 北極圏には未発見の石油の13%、天然ガスの30%が眠っており、ほとんどの石油・ガス資源は、水深500メートル以浅の海底にあり、比較的容易に採掘可能とみられ、その多くはロシアの管轄域に存在する。

 北極海は長年商業用の航路として使用されることはなかったが、近年海氷の減少に伴い、商業利用が始まりつつある。

 北極海を通る航路としては、カナダ側を使用する北西航路、ロシア側を通過する北東航路または北極海航路(Northern Sea Route:NSR)、2013年夏、中国の砕氷船「雪龍」が使用し注目を集めた(北極海)中央航路がある。このうち、最も開発、使用が進んでいるのがNSRである。

 地政学的な影響については、歴史のif(もしも)を考えてみるとよく理解できる。もし日露戦争当時に北極海航路が開通していれば、バルチック艦隊は迅速に日本近海に進出、旅順要塞陥落前に到着、旅順艦隊と連携し我が国連合艦隊を挟撃する、という事態も想定され日本海海戦の帰趨が変わった可能性もある。

 これら融氷に伴う資源開発・北極海航路使用が現実味を帯びるに従い、それまで沈静化していたカナダ・デンマーク間のハンス島帰属問題、米・カナダのビューフォート海領域確定問題、カナダ・デンマーク・ロシア間のロモノソフ海嶺(大陸棚延伸)問題など、国家主権や領域確定問題が表面化してきており、これらが安全保障の認識に影響を与えている。それとともに、冷戦構造とは異なった組み合わせの構図が見える。