このベルリンオリンピックというのは、ヒトラーがドイツの宣伝のために大いに利用したプロパガンダオリンピックとして後世に名を残すが、この時、オーエンスは、たったの45分間で5つの世界新記録を出した。

 その1つが走り幅跳びの8.13メートルだったのだが、この記録は1960年、やはり同じくアメリカのラルフ・ボストンが8.21メートルを飛ぶまで、25年のあいだ破られることはなかった。

 つまり、この8センチのために25年が費やされたのである。それを考えれば、レーム選手が達成したように、1年で自己の記録をポンと80センチも伸ばすことは、いかに才能がある選手でも、はっきり言ってあり得ないだろう。

 しかも走り幅跳びは、助走のスピードと跳躍距離に比例関係があるというが、レーム選手の場合、助走のスピードは他の選手よりも劣るにもかかわらず、跳躍の角度は劣らない。義足が補助器具としての役目を果たしたことは、おそらく間違いがない。

 ドイツ陸上競技連盟が、レーム選手をヨーロッパ選手権の大会に派遣しないと決めたその理由は、身障者の選手の差別でも何でもなく、公平を期するためのやむを得ない措置であったのだと思う。

 このまま彼をヨーロッパ選手権に送り込んだなら、おそらく、そこで同じ問題提起が為されるだろうことは間違いない。言うなれば、そういうことを曖昧にしたまま、レーム選手のドイツ選手権への参加を認めてしまったことが迂闊であったとも言える。

米国とロシアの家族のために滑走したマクファーデン、ソチパラリンピック

ソチ冬季パラリンピックのクロスカントリースキー女子12キロメートル(座位)で、競技に臨む選手 ©AFP/KIRILL KUDRYAVTSEV〔AFPBB News

 ただ、突き詰めていくと、問題は、実は義足だけではない。今回の問題は、足を競う競技で、義足の性能が良すぎたから起こったわけだが、これと同じことは、身障者だけではなく、装具を使うスポーツ競技なら、絶えず起こる可能性がある。スキーであれ、自転車であれ、装具の性能が大きく物を言うのは明らかだ。

 そういえば野球でも、昔、木のバットに代わって金属バットが現れたとき、問題になったことがあった。もっと新しい話では、水泳選手のスイムスーツの素材。1秒以下の単位で争うとなれば、スイムスーツが水との間に起こすわずかな抵抗の差であっても、無視できない。