「ベトナムに駐在しています」と言うと、「医療事情が悪そうで、大変ですね」と心配していただくことが多い。

 実際、外国人的には、医療面での不安は大きい。私の知人が、ベトナムの現地大病院で大腸の一部を切除する手術を受けた。

 その後、日本に出張した際、経過診断を日本の病院で行ったところ、「この状況なら、切除は不要でしたね」と日本の医師に言われ、「大腸の切り損だった」と激怒していたが、こうしたケースは結構よくある(よくあってはいけないのだが)。

 ベトナム人自身も自分の国の医療をあまり信頼していない。それなりにお金を持っているベトナム人は、ちょっとした検査や治療を受けるときには、わざわざシンガポールやバンコクの最新鋭の病院にまで出かけていくケースが多い。

 ご承知の方も多いと思うが、バンコクの一流病院は医療技術も高く、5つ星ホテル並みの待遇・サービスで、日本の病院の比ではない。

 しかし、医療事情が良くないということは、それだけ医療系ビジネスのチャンスが大きいということの裏返しでもある。実際、多数の日系医療企業がベトナムへの参入機会を狙っている。

 本稿では、ベトナムの医療事情を紹介しつつ、次稿以降で、医療ビジネスのチャンスについて具体的に書いてみたいと思う。

相対的には普及している医療サービス

 ベトナムの医療は、相対的には、他東南アジア諸国に比べると、全国に行き届いている。

 ベトナムの人口1000人あたり医師数は、1.22人。この水準は、1人あたりGDPがベトナムよりも高いタイやインドネシアの0.32人と0.29人を大きく上回る。つまり、医師の数は、それなりに多い(日本は2.14人)。

図1:人口1000人当たり医師数(出所:世界銀行資料よりDI抜粋)