昭和20(1945)年7月、サイパン島の日米攻防戦において、米軍の圧倒的物量の前に矢弾尽き果てた第31軍は、参謀長井桁敬治少将が玉砕攻撃を前にして、本土に決別電報を打電した。

米、中国に国際空域での緊張回避を呼び掛け

自衛隊機に異常接近を繰り返したSU-27戦闘機(写真は航空ショーが行われた珠海での展示)〔AFPBB News

 「・・・将来の作戦に、制空権なきところ勝利なし。航空機の増産活躍を望みて止まず」

 制空権を失った戦いの悲惨さを訴える悲痛な電報であったが、この教訓は現在にあっても輝きを失っていない。

 昨年12月、中国は東シナ海に防空識別圏を一方的に設定し、国際法を無視して、あたかも領空のごとき運用を続けている。5月24日には、日中の防空識別圏が重なる公海上の空域で、情報収集にあたる自衛隊機、米軍機に対し、極めて危険な異常接近を繰り返すという威嚇行動をとった。

急速に技量を上げている中国のパイロット

 東シナ海のみならず南シナ海でも、領有権問題は一触即発の緊張が続く。中国の軍事力行使を抑止できるかどうかは制空権、制海権の帰趨にかかっていると言っていい。特に制空権、つまり航空優勢の獲得は対中国抑止戦略のカギとも言える。戦略家ジョン・ワーデンは次のように言う。

 「すべての作戦に航空優勢の確保は不可欠である。いかなる国家も敵の航空優勢の前に勝利したためしはなく、空を支配する敵に対する攻撃が成功したこともない。また航空優勢を保つ敵に対し防御が持ちこたえたこともない。反対に航空優勢を維持している限り、敗北した国家はない」

 第2次大戦におけるナチスドイツの英国本土攻略作戦では、英国が本土防空作戦「バトル・オブ・ブリテン」で航空優勢を維持し続け、ヒトラーの野望を挫いた。

 日本が東シナ海上空の航空優勢を確保し続ける限り、公船同士の小競り合いはあっても、日中の軍事衝突は抑止できるだろう。東シナ海の航空優勢はいまだ我が方に分がある。だが、今回の自衛隊機、米軍機に対する中国戦闘機の要撃行動からも伺えるように、質量共に着々と実力をつけているようだ。

 昨年12月に定められた「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」および「中期防衛力整備計画(平成26年~平成30年)」でも「航空優勢の獲得」は重視され、限られた予算の中でも重点的に配意された。

 ただ、これには盲点がある。中期防衛力整備計画には装備面の充実は俎上に上っている。だが、それを運用する人的戦力の養成、管理の問題については放置されたままだ。