東南アジアは日本にとって歴史的に重要な地位を占めてきたのと同時に、日本は東南アジアにおいて特に経済的に重要な役割を担ってきた。ここ数十年にわたり日本は莫大な額のODAを東南アジアの経済に注いできたのに加え、広大な製造ネットワークを建設し、日本は戦後復興の好例としてアジア諸国の経済を引っ張ってきた。

 しかし今日、東南アジアは大きな変化を遂げている。最近はベトナムが中国との南シナ海での対立を鮮明にし、軍事活動の可能性も否定できない。

 今月初めに安倍晋三首相がシンガポールでの演説で中国を牽制し、ベトナムやフィリピンとの領土問題での協力を呼びかけたのも、東南アジアの地域的力学を反映したものであった。アメリカの軍事的優位が低下し、中国の影響力が増加する中、東南アジアにおける日本の政策は今後も変化を強いられることになる。

中国はどう影響力を増大させているか

 現在、日本の影響力は徐々に中国に取って代わられている。ハノイ、バンコク、クアラルンプールを歩いても中国の製品、サービス、投資の宣伝があちこちに見られる。さらにアフリカや南米でも、ボーキサイトやコバルトなどのいわゆる「戦略的鉱物」や公共施設などのインフラ設備などへの投資を通し、中国の影響力は増加してる。

 東南アジアでの中国の力の礎として、何百年もの間東南アジアに住み着く中国系移民の存在がある。マレーシア、シンガポール、インドネシア、タイ、そしてフィリピンでも至る所にある中国人居住地は、現地経済の基盤となっている。例えばマレーシア北部や南部のマラッカ海峡を訪れた際も、まさに中国系マレー人が多く住み込む世界であるのを目の当たりにした。

マレーシア北部の街イポーにある中華系の神社(写真提供:筆者、以下同)

 中国経済の影響力は今後、様々な形で表れるだろう。その1つに東南アジアの国々で使われている通貨がある。政策研究大学院大学のチェ・ヒョング教授が2013年に発表した論文では、人民元がアジア地域の共通通貨になるだろうと指摘している。

 もちろん、ドルに取って代わる国際通貨までとはいかないが、アジアという限られた地域内ではドルでもなく日本円でもなく、人民元が流通することになるかもしれないというのである。