本記事はLongine(ロンジン)発行の2014年4月22日付アナリストレポートを転載したものです。
執筆 持丸 強志
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投資家に伝えたい3つのポイント

●今回の円安局面では、自動車産業の輸出構造に変化の兆しが出始めています。
●輸出金額の減少は、自動車産業が享受する円安メリットの縮小を意味します。将来的にはさらに顕著になる可能性があります。
●「円安=自動車関連株は買い」という図式は徐々に当てはまらなくなるかもしれません。

円安でも貿易収支は21ヶ月連続の赤字

財務省が毎月発表している貿易統計によると、2012年秋から始まった超円高の是正、及び、その後の円安転換にもかかわらず、貿易収支(通関ベース)は2014年3月まで21ヶ月連続の赤字となっています。特に、2014年1月の貿易赤字は約2兆7,900億円となり、現行統計が始まった1979年以降最大の赤字幅となりました。こうした貿易赤字が続いている背景として、円安による輸入品価格の上昇、とりわけ、原発の稼働停止による液化天然ガス(LNG)等の火力発電用の燃料輸入増加が指摘されています。

円安でも輸出が増えない産業構造になったのは本当か?

貿易赤字が続いているもう一つの大きな理由として、こうした輸入品価格の上昇程ではないようですが、(円安にもかかわらず)輸出が一向に増えない点も議論されています。最近の新聞報道等でよく見るのは、“長年に渡る海外生産移管により輸出が増えない構造になっている”ということですが、これは本当でしょうか?そう簡単に結論が出る問題ではなさそうですが、自動車産業の輸出状況から考察してみます。

輸出金額は増加の一途を辿ってきた自動車産業

自動車産業の輸出構造の特徴は、(1)円高や海外生産シフト等により、日本からの輸出台数は減少傾向にある(現状はピーク時の3分の2程度)、(2)一方で、輸出金額(ドル建て換算ベース、以下同)は基本的に大幅増加の一途を辿っている(この20年間で約4倍増)、(3)最近では部品輸出金額の伸びが極めて著しい、といえます。つまり、クルマの輸出台数が減っても、部品を含めた輸出金額が大幅に増加しているため、円安時には為替メリットが効いて業績を大きく押し上げる構造になっているのです。

輸出台数の漸減トレンドは続いている

ところが、2012年秋に始まった今回の円安転換以降の状況を見ると、明らかに変化の兆しが見られます。月次ベースの輸出台数は、2013年8月~11月の4ヶ月間は前年を上回ったものの、それ以外は前年割れ(マイナス)となっており、2013年度11か月累計(2013年4月~2014年2月)では対前年同期比▲1%です。3月に極端に増加しない限り、2013年度の輸出台数は2期ぶりの減少になる可能性が高いです。やはり、輸出台数の漸減傾向は続いていると考えますが、台数ベースの減少トレンドは従来通りであり、想定の範囲内と言えましょう。