「世界を牛耳る覇権国になることが我々日本民族の幸せにつながり、それが日本の黄金時代の姿だ」とは私を含め、ほとんどすべての日本人は夢にも思っていないであろう。

 大東亜戦争末期に米軍による史上空前の焦土作戦が行われ日本は廃墟と化して敗戦した。その翌年のどん底だった日本に私は生を受けた。

 その貧しい時代(私の幼少時代であるが貧しいと言う自覚は全くなかった)から高度成長期(青年~中年期)として日本が経済的繁栄へと駆け上る夢と希望に溢れた幸せな時代を生き延びて、世界中で数少ない程平穏な日々をこの国で謳歌できた。

 この穏やかに過ごすことができた私の人生も間もなく幕引きになる。この約70年の人生を振り返って、何とお礼を言っていいか語り尽くせないほどの恩をこの国に感じる今日この頃である。

 そこで、この変化の大きい時代に生きた平凡な一日本人としての思いの一端を元気な内に書き留めておきたいと思う。

 私が感じているように、恐らく大多数の日本国民は「身の危険を感じることなく、平凡な日々を心身ともに充実感を持って過ごせ、(強く意識するかしないかは別として)この国に生まれて良かった」と思える“それが理想的な自分の国の姿だ”と思っているのではないだろうか?

 そのような観点からすると日本民族は人類史上でも“理想に近い”状態を比較的長く享受して来たと言えるのではないだろうか。

 それが可能だった原因を探ると、

●島国であったため外部との接触が少なく、言語習慣が単一で長年にわたり狭い国土内で混じり合った血の濃い独特の日本民族に浄化・形成されたこと

●日本の国土が他民族の侵攻による蹂躙または戦場になる大規模な混乱がほとんどなかったこと

●記録に残る約1300年前から伝わる歴史書だけを見ても自らは質素な生活に甘んじた天皇家が民族の中核として連綿と継承され“民を慈しみかつ民から慕われてきたた”こと

●春夏秋冬の季節の変化と温暖な気候で全土にわたり緑豊かな植生に恵まれたこと

●農耕民族として住民間の穏やかな交流社会が形成され相互に協力する勤勉な民族基盤が形成されたこと

●平穏な社会が続いた結果、庶民に至るまで芸術・文化・教養が浸透し、ことの理非を自ら判断し、知識への好奇心と豊かな感性が育てられたこと

 など幸運な環境が整った国土で生存できた民族であったと言えるのではないだろうか?