日本が米国とのTPPで揉めているのと時を同じくして、現在、EUも米国とTTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ)で揉めている。

 TTIPは、米国とEUが力を合わせて、アジアに対抗できる安定市場を作り、互いに利益を得るためのパートナーシップであるが、今のところ、熱心なのは米国だけのように見える。

 いや、本当はそう見えるだけで、EU内でもTTIPの締結を心待ちにしている人たちはたくさんいるのかもしれない。

 ただ、いろいろな事情でEUは躊躇している。というのも、EU内ではTTIPに反対の意見がかなり強く、諸手を挙げて賛成するわけにはいかないという複雑な状況になっているからだ。去年は、交渉開始すら、それが正式に宣言されるまで結構時間が掛かった。

 すったもんだの末、ようやく交渉が始まったのが7月8日。しかし、交渉に携わっているEUの委員会は以来、その内容を公開しない。非公開の理由は、手の内を敵(米国)に見せるわけにはいかないからだそうだが、そのせいで何につけても懐疑的なドイツ人は、とりわけ不信感を募らせている。

遺伝子組み換えトウモロコシや塩素鶏に対する強烈な抵抗

 今月の初め、TTIPに反対のドイツのNGOが、47万人分もの署名を集めた。それに対するドイツ副首相ガブリエル氏のコメントは、「まだ存在しない物に反対する署名を47万も持ってきたNGOがあったと聞きました」。しかし、多くの人は、存在してからでは遅すぎると確信しているのである。ガブリエル氏は、エネルギー・産業相も兼任している。

 では、何が遅すぎるのか? 彼らはいったい何に反対しているのかというと、一番感情的に論じられているのが、「遺伝子トウモロコシ」と「塩素鶏」だ。

 「遺伝子トウモロコシ」は遺伝子組み換えのトウモロコシで、「塩素鶏」は、殺して毛を毟り、殺菌のために塩素のプールに漬けられた鶏のこと。米国では、どちらも普通に販売されているらしいが、ドイツ人は凄い勢いで抵抗している。

 遺伝子トウモロコシも塩素鶏も食べたくないし、スーパーに置くのもゴメンなのだ。とにかく話題沸騰で、最近、丸裸の鶏が塩素プールに漬けられる映像が、やたらにテレビのニュースで出てくる。夢に見そうだ。