ベトナムは裾野産業が未発達という大きな弱点を克服できないままでいる。自動車産業の場合、自動車の組み立てはできても、部品のほとんどは海外から調達しなければいけない(「トヨタがベトナムから撤退する日」参照)。

未発達な裾野産業

 ベトナムの現地調達率は、輸送機械の場合、約30%に過ぎない。自動車メーカーは地場企業からの部品調達を拡大したい。しかし、技術、品質、納期等の問題もあり、すぐには調達比率を上げることは難しい。

 ベトナムはユニクロなどのファッションブランドの一大製造拠点として有名だ。「メイド・イン・ベトナム」の服を日本でもよく見かけることだと思う。しかし、原料となる糸は国内でほとんど調達できない(これら繊維素材のプラントには巨額の投資が必要とされるため)。

縫製に従事するベトナムのワーカー(DIスタッフ提供)

 そのため、原料はもっぱら中国から輸入し、それを工場のおねえさんが一生懸命にミシンで縫ってTシャツに仕立てる部分のみがベトナムの付加価値だ。

 要は、ベトナムは安い人件費を武器に加工賃で稼いでいるだけで、本質的な産業資本の蓄積ができていない。

 この低賃金依存の戦い方は、明らかに持続的ではない。

 2018年には、ASEAN諸国内の関税が撤廃される。そのため、自動車・エレクトロニクスなどの高付加価値型の製造拠点は、ベトナムを離れて、ASEANの先行ランナーであるタイなどの大型工場に生産を集約させる可能性も指摘されている。

 一方、人件費の安いミャンマーの開発が進みつつあり、いままでほとんど聞こえてこなかった後ろのランナーの足音も少しずつ聞こえ始めている。

 ベトナムが産業政策を考えるための猶予期間は限られている。

乱立する工業団地

 裾野産業が育たないのは、一言でいえば中央政府が無策だからである。

 ベトナム政府も問題点は認識しており、日本政府の協力を得て、「ベトナム工業化戦略」を2013年に作成。農水産加工、農業機械、エレクトロニクス、造船、自動車、環境・省エネの6つを重点戦略分野に定めている。

 重点産業は一応定められたものの、では、その産業をどう育成するかという点については、まったく具体策がない(過去も、現在も)。