トヨタ自動車がベトナムから撤退する日が数年以内に来るかもしれない。

 決して最重要機密を漏洩しているわけではない。トヨタの役員クラスが公然とその可能性を示唆し、ベトナム政府に対して繰り返し警鐘を鳴らしている周知の事実だ。

2018年にゼロになる関税

開発が進むホーチミン市内。中央は中心部にある国営百貨店、サイゴン タックス トレードセンター(写真提供:筆者、以下同)

 ベトナムでは、自動車産業保護のため、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内からの完成車の輸入に対しては60%という高関税がかけられている。

 分かりやすい例で言えば、仮に1000万円の「レクサス」を輸入すると、車両価格だけで1600万円になる。

 これに奢侈税、車両登録税、VAT(付加価値税)など諸々の諸費用・税金を含めると、ざっくりと2500万円。つまり、当初の2.5倍ぐらいの価格になる(ちなみに、2000万円ぐらいの車に乗っているベトナム人はざらにいる。いったい、彼らがどうやってそんなカネを稼いでいるかは興味深い話だが、それは次回以降に書きたい)。

 この完成車への輸入税が、ASEAN自由貿易協定(AFTA)によって、2018年にはゼロになる。これが、トヨタをはじめ、ベトナムにある自動車メーカーの存亡を左右する。

 ベトナムでは、自動車部品の現地生産比率が非常に低い。現地生産できる部品は、シートやワイヤハーネスなど労働集約的なものが中心で、ほかは輸入に頼らざるを得ない。部品の現地調達率は、自動車メーカーによって異なるが、20~30%程度だろう。

 そうすると、完成車の関税がゼロになった場合、トヨタにとっては、わざわざ部品を輸入してベトナムで割高な完成車を作るよりも、部品を現地で生産できるタイやインドネシアの生産拠点から完成車を輸入する方が安くなる可能性が高い。

組み立てるだけのスマートフォン

 部品の現地調達率の低さ、すわなち「裾野」産業の弱さは、決して自動車だけの話ではない。

 例えば、韓国のサムスン電子は、壮大なスマートフォン工場をベトナム国内で稼働させている。この工場の規模は壮観で、2013年の予想輸出額が約2兆5000億円、ベトナムの国としての輸出全体に占めるサムスン電子の比率は、低く見積もっても15%以上になる。

 しかし、この巨大なスマートフォン工場も、「実は部品はほぼすべて海外からの輸入だ」と、サムスンの関係者が語っている。つまり、ベトナムは輸入した部品を、低価格な労働力を使って、組み立てるというだけの付加価値しか提供できていない。