4月3日、Webブラウザの「Firefox」で知られる米モジラ(Mozilla)の新CEO(最高経営責任者)が、任命されてからたった10日で辞任した。

 辞任したのはブレンダン・アイク氏(52)。シリコンバレーでは名の知れたプログラマーだった。プログラミング言語JavaScriptの開発に携わり、モジラの共同創業者の1人である。創業以来16年にわたり、同社の中心人物として会社の成長に貢献し、この9年間は最高技術責任者(CTO)を務めてきた。

 経歴だけ見ればこれほど同社のCEOに相応しい人物はいないように思える。だが、CEO就任と同時に、過去に同性婚反対の活動に寄付金を出していたことが問題となり、主にSNS上で批判の集中砲火を受け、辞任を避けられない状況に追いつめられた。

「アイク氏は差別主義者で時代遅れ」?

 まずは、問題視されているアイク氏の行動とその背景について説明しよう。

 2008年、アイク氏が1000ドル(およそ10万円)を、カリフォルニア州内で同性婚に反対する運動をしていた団体に寄付した。

 当時、現オバマ大統領をはじめ、リベラルな政治家たちでさえ、大半は公に同性婚反対の立場を取っていた。カリフォルニア州では同性婚を一度は法律として認めたものの、その後修正して事実上無効とするなど、同性婚を巡っての政治状況は混乱を極めていた。

 それから6年が経ち、同性婚に関する考え方も状況も大きく変化した。当時はたった2州しか同性婚を認めていなかったが、今では17州が認めている。つまり、アイク氏が同性婚に反対する団体に寄付した当時と今では、世の中の空気はだいぶ違っている。

 アイク氏が同性婚に反対する人物であることは、モジラ内でもシリコンバレーでも広く知られていた。そのアイク氏がCEOに任命されたことで、まずは社内から批判の声が上がった。3人の役員が辞任し、一部の社員はツイッターやフェイスブック上で、アイク氏のような差別主義者が会社の代表になったことに失望と怒りを感じると表明した。