(米「パシフィックフォーラム CSIS」ニュースレター、2014年14号)

By Brad Glosserman & Scott Snyder

 中国政府は韓国と協力して、1909年に当時(日本の保護領であった)韓国の総監であった伊藤博文を暗殺した活動家の安重根をたたえて彼の記念館をハルビンに完成させると発表したが、これは前向きな日韓関係を妨げる歴史的障害を象徴的に表している。それに続いて起きた論争は、日韓の歴史観の相違(日本にとっては安重根はテロリストであり、韓国にとっては自由の戦士である)を反映したものになっている。

しかし、この出来事は現在のところ型にはまってしまっている日本と韓国との間の深刻で根源的な不和の要因を浮かび上がらせている。つまり、日韓関係を改善するのに必要な和解への道に立ちはだかる相反するナショナルアイデンティティーの概念である。

見過ごされがちなナショナルアイデンティティーの概念

 安重根に対する対照的見解はその相違を示している。韓国人にとって彼は韓国を支配していた憎むべき皇威の権化を襲撃し国家の独立のために命を捧げた「国民的英雄」である。一方日本人にとっては、日本の将来に影響力を持ち日本の近代化において指導的立場にあった、日本の国益を図り敵意に満ちた世界の中で日本の生き残りを確実にした4回もの首相経験者を殺害した犯罪者である。

 これらの両国の彼に対する印象は、歴史的“事実”をめぐる論争を超越したナショナルアイデンティティーに結びつく根本的な見解を反映している。したがってそれぞれの国家の概念を傷つけることなしには、容易にそのイメージを取り除くことはでない。

 日韓関係の緊張状態の原因はよく知られている。つまり、領土問題、歴史解釈の相違、厄介な国内政治などである。しかし、おそらくそれらよりもっと重要だがあまり議論されていない問題は、日本人と韓国人のナショナルアイデンティティーに対する考え方であろう。