キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)研究主幹の山下一仁氏をゲストに迎えた今回の『中山泰秀のやすトラダムス』(4月6日放送/Kiss FM KOBEで毎週日曜24:00-25:00放送)。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉をめぐり日本国内に根強く展開するTPP反対運動の矛盾点、軍事面から見た環太平洋地域の連携強化などについて解説した。
TPPの本質を理解していたカナダとメキシコ
中山 今回は、キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)研究主幹の山下一仁さんにお話を伺います。
今、政府が取り組んでいる環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)問題について、食料、農業政策、地域振興政策を中心に研究に従事されている山下さんは、どうご覧になっていますか。
山下 まずTPPは自由貿易協定ですが、自由貿易協定というのはある国や地域との間で関税を撤廃したり、投資を自由化しようというものです。この仲間に入らない国はいわゆる差別を受けることになり、TPPが拡大するほど大きなデメリットを被ってしまいます。
ある興味深い事実があります。民主党の野田(佳彦)前首相が2011年、ホノルルで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でTPP交渉への参加を表明したところ、カナダとメキシコも即座に交渉参加を決定しました。日本のように政府与党内で右往左往することもありませんでした。つまり、この2国はTPPの本質を実によく理解していたのです。
もともとカナダとメキシコは米国との間で北米自由貿易協定(NAFTA)を締結しており、米国市場に自由にアクセスできました。そんな彼らにとって、日本が入らない自由貿易協定は大した意味を持たなかったわけですが、日本の参加によってアジア太平洋地域に巨大な貿易圏が生まれることが分かり、参加に名乗りを上げたのです。
もちろんTPPにはデメリットもありますが、彼らはこの貿易圏から排除される恐怖を知っていたということです。残念ながら、当時日本の首脳や政治家にこうした本質を理解していた人は少なかったと思います。
TPP反対論を唱える人の多くは「米国怖い病」なんです。しかし、かつて農水省にいて通商交渉もやった私の立場から言わせていただくと、決して米国に負けてばかりいるわけではないんです。しかし、米国は怖い怖いという言説に影響されて、反対論に走ってしまったということもあったんだと思います。
米国はTPPで公的医療保険制度について議論できない
中山 キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)のウェブサイトに、山下さんが座長を務められたTPP研究会の報告書最終版「TPPの論点」が載っていますが、その冒頭でこう指摘されています。
「TPPへの参加については、当初これによって影響を受けると考えた農業界によって、強い反対論が示された。現在では、これに加え、TPPによってデフレが進行するとか医療や地方の建設業も影響を受け国の枠組みが壊れるなどと主張する書籍が、評論家と言われる人たちによって多数出版されている。しかし、TPPを批判する書籍には、通商問題を巡る事実関係や国際経済法や国際経済学に関する誤解や誤認に基づく主張が少なくない。我々は、このような主張が国民の中に広く伝わることを憂慮する」と。
この研究会を始められたきっかけや、得られた知見について教えていただけますか。