私ごとだが、イギリスやフランスの街を歩いていて思わず立ち止まってしまうのは、帽子屋だ。

 宝石箱のようなお菓子屋や品のあるブティックもいいけれど、鮮やかな色のいろんな形の帽子が飾ってあると「あぁ、あんな帽子をかぶってみたい。きっと自分じゃないみたいな気分にひたれるだろうな」と憧れる。

アートの要素を入れた帽子を中心に作っている村山京子さん。形が命の帽子は、大切に保管すればいつまでもかぶれる。写真のような帽子は洗えないのでブラシをかけて保管する(写真提供:すべてアトリエ「Murk」村山京子)

 帽子の専門誌まである帽子の本場イギリスや、ココ・シャネルの帽子で名高いフランスでは、そういった専門店で値の張る手の込んだ帽子を買ったり、オートクチュール(一点ものを特別注文、すべて手作業で作り上げる)するのは日常の光景。

 男女ともに、結婚式、競馬観戦、キリスト教の儀式(洗礼式など)に人目を引く華やかな帽子をかぶるのが習慣になっている。

 そんな格調ある帽子を作っている日本の女性がパリにいる。帽子作家として独立して10年を迎えた村山京子だ。

 素材もデザインもほぼ無限にあるといっていい帽子作りだが、「長年、経験を積んだおかげで技術的な引き出しが多くなったので、思い描いた帽子をそのまま形にできるようになりました」と言う、魔法の手を持つ村山に、帽子の世界について語ってもらった。(文中敬称略)

帽子をかぶって心がはずんだ子供時代

著名人も村山さんの顧客だ。写真の高級シルクハットは、歌手 Micky Green がパリ郊外シャンティイ競馬場での競馬観戦でかぶった。ちなみにパリの競馬観戦では帽子をかぶると入場料が無料になる

 村山は、パリに自分のアトリエ「Murk」を構えている。自分のコレクションとしてオリジナル帽子を作って展示したり売ったりするほか、一般客からオーダーを受けたり、舞台やテレビ番組のための帽子作りを頼まれたり、有名服飾ブランドの帽子作りも手伝ったりと、まさに帽子作り一色の生活を送っている。

 何点もの制作に追われている真っ只中のためアトリエにお邪魔することは控えたが、黒とグレー系のシックな装いで現れた村山は自作の帽子をかぶってきてくれた。

 肌寒い朝にぴったりの暖かそうな帽子は、とても温かな雰囲気の村山をより柔らかいベールに包む。帽子自体は決して派手ではないのに、頭からつま先まで華やかな感じが漂った。改めて、帽子の威力に脱帽した。