子供たちがカメラのファインダーをのぞき、シャッターボタンを押す。こうして写し出される世界とは、いったいどんなものだろうか――。

 カンボジアで今、スラムの子供たちに写真を撮る機会を提供する活動が日本のボランティア組織によって行われている。

 長きにわたる内戦の苦しみを乗り越え、平和な時代を迎えたカンボジアは今、経済成長のまっただなかにある。日本企業の進出も拡大し、カンボジアは「ポストチャイナ」の有力な投資先のひとつとなっている。

 しかし、発展の中で取り残された人々もいる。

 カンボジアの首都プノンペンなど都市部には、貧困層が集住するスラムがある。スラムに暮らす人々は経済成長の恩恵を十分に享受できず、貧困から抜け出せないままに困難な生活を余儀なくされている。

スラムの子供たちが撮った写真(提供: ARBA、以下同)

 そんな中、日本の特定非営利活動法人「The Alternative Relations Bridge in Asia (ARBA)」が、プノンペンのスラムの子供たちを対象に写真を撮るプログラムを提供している。

 2013年11月、子供たちが撮影した写真を集めた写真展が秋田県で開かれた。2014年3月にはプノンペンで写真展が開かれる見通しだ。

 なぜ子供たちにカメラを持たせ、写真を撮る機会を与えるのだろうか。ARBAの活動を追ってみたい。

子供たちの自立を促す「スラムの学校」

 ARBAは2005年に設立され、これまでに教育関係者や学生、会社員などさまざまな立場の人が活動に参加してきた。

 主に、プノンペン南端のスラム地区で子供たちの支援活動を行う「職業訓練開発機構(Vocational and Developmental Training Organisation: VDTO)」を支援している。

 ARBAの活動を理解するため、まずは支援対象となっているVDTOについて見てみたい。

 カンボジアの人口は約1470万人で、クメール語を話すクメール人が大多数を占めるが、ほかに複数の少数民族を抱える。宗教もクメール族が信仰する仏教以外に、キリスト教やイスラム教の信者がいる。

 こうした中、ARBAによると、VDTOが拠点を置くのは、1990年代初めの急激な都市化により、地方から移り住んだ人々が居住する地区だ。この辺りの住民は低所得層が中心で、いわゆるスラム地区を形成している。