日本人がほとんど心配しなくなったことを米西海岸の住民たちはいまだに憂慮している。科学的に実証されていなくとも、心配は募るばかりというのが住民たちの心情だ。
米西海岸の地方自治体が出した決議案
昨年末、カリフォルニア州サンフランシスコ市周辺のバークレーやフェアファックスといった地方自治体は、太平洋に流出した福島第一原子力発電所からの放射性物質の影響を憂慮し、地方議会ごとにある決議案を採択した。
フェアファックス町の決議文には次のようなくだりがある。
「福島第一原子力発電所からはいまだに大量の汚染水が太平洋に流れ出ている。(中略)放射性物質は国際社会が直面する最悪の脅威の1つであり、技術的にも最大の課題である。同時に、米西海岸は健康と安全の脅威にさらされている」
「(中略)国連安全保障理事会は30日以内に放射性物質のレベルを減少させるための緊急措置を講じるべきである。さらに米食品医薬品局(FDA)、環境保護庁(EPA)、農務省、国際貿易委員会(ITC)等の連邦機関は、放射性物質が海洋生物や海水等に及ぼす科学的なデータを採取してネット上で公開すべきだ」
地方自治体の決議案としては、かなり踏み込んだ内容である。国連安保理や連邦政府に対して放射性物質のチェックを要請してもいる。だが法的拘束力はない。それでも、太平洋沿いに住む市民たちが、事態をいかに深刻に受け止めているかがうかがえる。
1月末現在、国連安保理も連邦政府機関も決議案を受けてのアクションは取っていない。EPAくらいは要請を受けて、放射性物質の海洋調査を実施してもよさそうだが、「町議会の決議案くらいで連邦政府は動いていられない」とでも言いたげだ。政治的な駆け引きも背後であるかもしれない。
福島からカリフォルニア州までは8000キロ以上もある。汚染水が太平洋に流出しても、放射性物質は希釈されると一般的には考えられる。海流の流れは日本から西海岸に向かっているが、米市民が憂慮するほどの緊急性はないと考える科学者もいる。
ただ専門家の中には、汚染水が太平洋に出たあと「ポケット」や「ストリーム」と呼ばれる高い濃度の水域が形成され、それが太平洋の反対側に運ばれて悪影響を及ぼすすと主張する人たちもいる。