宇宙の軍事利用が今、大きな変化の波に洗われようとしている。宇宙利用*1の脆弱性に目をつけ、宇宙利用を妨害して機能を麻痺させ、戦いの主導権を握ろうとする動きが生まれているからだ。

宇宙は「利用」から「せめぎ合い」の時代へ突入

目次

 軍事分野において、宇宙は「利用する領域」から「せめぎ合いの領域」に変わりつつある。我が国はこの現実を直視しなければならない。

 最近、宇宙での日本の活躍が国民の目を引いている。日本人宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)で成果を挙げ、昨(2009)年はそのISSへの貨物輸送を宇宙ステーション補給機(HTV)が担い正確にドッキングに成功した。

 そして今(2010)年は惑星探査衛星「はやぶさ」が7年間の宇宙の旅の結果、満身創痍になりながらも多大の成果を持って帰還した。

 さて、宇宙はもはや夢や冒険の対象としてだけの存在であったり、「はるかかなたの空間」ではなくなっている。

 我々は地球の反対側から通信衛星で送られてくるサッカー・ワールドカップの実況中継放送を観戦して熱い声援を送り、日常のドライブでは全地球測位システム(GPS)を使ったカーナビが欠かせない。

 グローバル化した経済分野ではインターネットで情報を取り、世界中の取引先と衛星通信を介して交渉し、電子メールでやり取りをし、即時に決裁しないと後れを取る。

 宇宙が日常の活動に不可欠になったのは、軍事分野も同様である。作戦行動において、敵情報の収集から、情報の共有、命令・指示の伝達、個別の兵器の運用、そして戦果の確認まで、いずれの段階でも衛星が大きな役割を果たしている。

 しかし、軍事分野は今、大きな変革の時にある。これまでは宇宙を効果的に活用して、いかに作戦行動に役立てるかということに力が注がれてきた。ところが最近、宇宙利用の脆弱性に目をつけ、これを妨害し阻止する動きが生まれているのだ。

 このことは、宇宙の機能に大きく依存している近代軍を持つ国家ほど不利な状態に陥りやすいということを意味している。軍事分野において、宇宙は今や「利用する領域」から「せめぎ合いの領域」に変わりつつある。

 我が国では、2008年5月「宇宙基本法」を制定し、これまで制約が多かった防衛目的のための宇宙利用に道を開いた。これによって主要国の間では既に常態化している軍事分野での宇宙利用について、自衛隊をやっとスタート台に立たせることができた。

 ここでは、世界における宇宙の軍事利用の現状や今後の動向を踏まえ、我が国が宇宙利用を進めるに当たって防衛面で果たすべき役割や必要な措置を考える。

*1=本小論で述べる「宇宙利用」もしくは「宇宙の軍事利用」とは、大気圏を越えた領域で行われる周回する衛星等の活動およびこれらを支援する地上システム等を対象とし、一時的に宇宙を通過するミサイル等は含まない。