今、米国では、「アフルエンザ(Afluenza)」という新しい精神病が話題になっている。

 風邪の一種のような名前だが、直訳すると「裕福病」とでもなろうか。富裕層の子供で、幼い頃から何でも買い与えられ、しつけられることなく甘やかされ放題で育った結果、すべてをカネで解決できると思い込み、行動に歯止めが利かない人とその精神状態を指す言葉だそうだ。

 日本では「ドラ息子/娘」という一言で片付けられ、とても精神病と認定されるまでには至らないだろうが、ここ米国では深刻な犯罪の裁判の争点として登場した。

「金で解決できないことはない」と豪語

 2013年6月の深夜、24歳の女性の車がパンクし、路肩に緊急停車していた。近所に住む母親(52歳)とその娘(21歳)が手助けするために駆けつけた。そこにたまたま通りかかった牧師(41歳)も加わり、合計4人でタイヤ交換を行っていた。

 そこに、泥酔した高校生、イーサン・キャウチ(16歳)が運転するトラックが猛スピードで突っ込んだ。4人は即死だった。

 さらにキャウチのトラックは、牧師を待つ息子たちが乗っていた車に衝突。その車が道に押し出され、2人の女性が乗った車に衝突した。キャウチが乗ったトラックからは、同乗していた2人の高校生が放り出され重症を負い、全身麻痺の後遺症が残った。

 先日、少年裁判所でキャウチの判決が出た。検察はキャウチに20年の実刑を求めていたが、判決は実刑なしで10年の執行猶予。今後、アルコールや薬物中毒患者用の治療施設に入り、最低1年は施設から出てはならない、ということだった。

 実刑が出なかった理由は、キャウチ少年が、なんでもカネで解決しようとする親のせいで「アフルエンザ」を患っており、善悪の判断ができない人間に育ってしまった、と認められたからである。刑務所より治療施設が相応しい、ということだった。遺族の悲しみと無念さは激しい怒りに変わり、全米に燃え広がった。