私が11年間のサラリーマン生活を辞めて米国ハーバード・ケネディ・スクールに留学したのは、この連載の第1回目にも詳しく書きましたが、私たち一人ひとりが社会に参加し、社会を変えていくことで、日本人の人生はもっと豊かになると思ったのがきっかけです。

 ケネディ・スクールでは主にリーダーシップ、民主主義、市民参加をテーマに勉強をしましたが、特にリーダーシップの面では驚く程に日本的、東洋的な要素が重要視され、教えられていました。

 そこで思ったのが、私たち日本人が元々持っている資質を上手く生かして、新しい考えを取り入れていけば、最高の市民社会が実現できるのではということです。

 2年間の留学と現地でのNPO活動を終えて9月に日本に帰り、様々なNPO、企業、学術関係者の方々とお会いしている間も、その思いは日に日に高まってきました。

世界に広まっているコミュニティーオーガナイジング

 私は今、普通の市民が立ち上がり、みんなの力を合わせて社会を変えていくコミュニティーオーガナイジングという理論と実践を日本で広めようとしています。

 これは、1900年代頃からアメリカで女性、移民労働者、有色人種など、白人男性中心の政治では声が届けられない人たちの声を届け、民主主義をさらに高める手法として考えられてきました。

 諦めてしまっている人を勇気づけ、一緒に立ち上がらせ、人と人との関係を生み出してコミュニティーをつくり、政治に声を届けるだけでなく、様々な公共サービスも一緒に生み出す。

 コミュニティーオーガナイザーという職業は今や全米に広まり(オバマ大統領も若かりし頃そうでした)、数えきれないほどのNPOがコミュニティーオーガナイジング活動をしています。

 その動きは全米だけではなく、アジア、ヨーロッパにも広まっています。アジアでは特にフィリピン、韓国で広まっており、フィリピンではいたるところに市民組織がつくられています。

 さらに、イギリスでは地域の課題を地域で解決できるよう、コミュニティーオーガナイザーを政府主導で養成しています。

石巻市牡鹿半島大原区長の石森さんにお話を伺った(写真は筆者提供、以下同)

 帰国後、島根県隠岐の海士町や宮城県石巻市の牡鹿半島などに伺いましたが、そこでは行政やNPOの方々が、住民主導で地域の課題を解決するような土壌づくりに注力されていました。

 「行政のリーダーシップでは不十分。住民がリーダーシップを発揮するからこそ持続的な島の発展ができ、活動が広がる」とは、海士町役場の吉元財政課長の言葉です。

日本的リーダーシップが求められている

 コミュニティーオーガナイジングにおけるリーダーシップの考え方は、「不確かさのなかにあっても、人々が共有する目的を達成していけるような状況を、責任を持って創り出していくこと」です。