アメリカ東海岸・ペンシルベニア州のスリーマイル島(TMI)原発からの現地取材報告の4回目である。前回につづいて、ロバート・スイフト記者(60)のインタビューを続ける。1979年のメルトダウン事故発生時、同州都ハリスバーグで州政府・議会担当の地元紙記者だった。スイフト記者は、今も州政府・議会を担当する現役の新聞記者である。当時の質疑の書き起こし記録を手に、34年前に事故の記者発表が行われた州政府庁舎のホールを案内してくれた。

 事故当時、報道対応や住民避難など重要な事故対策は州政府の管轄だった。州政府を取材する記者たちも多数常駐していた。ホワイトハウスが介入するまで、主だった記者発表は州政府が行った。

 スリーマイル島原発事故と福島第一原発事故はいくつもの類似点があることを前回指摘した。その中で最も深刻なものは、どちらも情報が錯綜・混乱し、住民を早期に避難させることに失敗した点だ。その原因もまたよく似ている。

(1)「州政府」(住民避難の権限を持つ。日本での国政府にあたる)「電力会社」「ワシントンの連邦政府」(原発の規制・監督官庁であるNRC=原子力規制委員会)がバラバラに報道発表を行った。

(2)その発表内容が相互に矛盾した。

(3)混乱のなか、報道は「何が真実なのか」を見つける力がなかった。

(4)結果として避難に必要な正確な情報は住民に届けられなかった。

 これは「首相官邸」「原子力安全・保安院」「東京電力」がバラバラに報道発表をして、混乱を招いた福島第一原発事故の初期段階によく似ている。TMI原発事故では、最後はホワイトハウスが「大統領全権委任大使」(President’s personal representative=ハロルド・デントンNRC委員長)を現地に送り込み、報道発表を一元化、記者たちの質問に答えて混乱を収拾した。3.11で首相官邸が情報の流れを一元化しようとしたのと基本的には同じだが、混乱が収まらなかった点では、福島第一原発事故はTMI事故と違う。

情報を出し渋る電力会社

──どうして情報の混乱が始まったのか教えてください。

 「州政府が事故の情報を電力会社に依存していたからです。(記者会見のやりとり記録を示す)。初日午前10時の第1回会見で、記者は『誰の情報に基づいて、政府は市民の健康は安全だと言えるのか』『電力会社の情報に依存しているのではないか』と副知事に質問した。答えは『イエス』だった。別に副知事をいじめるつもりではなく、記者の本能からそう聞いたのです。