刑事、教師、医者など、社会性の強い職業がドラマの主人公になることはよくあるが、この秋のテレビドラマ「ダンダリン」(日本テレビ)では、珍しく労働基準監督官がヒロインになっている。竹内結子扮する段田凛は、法律(労働基準法)に忠実に従い、職務を遂行していこうという“きまじめな”監督官で、不正や不法は見逃せないタイプだ。

 ドラマには原作があり、田島隆(とんたにたかし)(原作)、鈴木マサカズ(画)による、コミック『ダンダリン一〇一』(ダンダリンいちまるいち)で、『モーニング』(講談社)で2010年1月から連載された。

 “ブラック企業”の存在が社会問題としてとりあげられる昨今、時宜を得たテーマのドラマ化で、ともすれば、テレビをはじめマスコミやスポンサー企業のなかでも、ドラマの世界が起こりえることを考えれば勇気ある試みだ。

 ドラマの第1回は、長時間残業をさせながら残業代を支払わず社員の人間性を無視するようなリフォーム会社をめぐる話。仕事に疲れ果て自殺未遂を図ったある中年社員の実態を知り、段田凛がこの会社を摘発しようとするが、社員本人は就職難のなかでやっと雇われた会社に対して“働かせてもらっている”という気持ちもあり当初は協力を拒否する。

 しかし、最後は気持ちが変わり、段田の熱意が通り労基署(監督官)は割増賃金(残業代)の未払いで経営者を逮捕する。

 「監督官には逮捕権があったのか」と、ドラマを見て思った人は多いだろう。実際に逮捕されたというニュースはほとんど聞いたことがないからだ。逆にいえば、逮捕にまでいたらなくても、一般に労働基準法違反は、道路交通法上の駐車違反と同じように蔓延しているのに放置されているという異常な実態がいかに多いかということの証しでもある。

サービス残業の複雑さ

 ドラマの2回目で扱われた「名ばかり店長」の問題も同様だ。実際に管理職としての権限も与えられていないのに、名前だけは「店長」とし、管理職だからということで残業代を認めないというのも、サービス残業をさせる違法行為だ。

 サービス残業という言葉は、労働者が会社のためにサービスでただ働きをしてあげているような響きがある。しかし、客観的な実体は、残業しても賃金が支払われていないという事実である。

 世の中、ものを買ったら金を払う。床屋で整髪してもらったら金を払う。払わなかったらこれは犯罪である。だが、労働だけは、金を払わなくてもいい世界ができあがっている。違法行為が蔓延している。

 その実態を「ダンダリン」は明快に描いている。ドラマの中で「どこの会社でもやってることだよ」、「いまさら、違法とはなんだ」と、逆ギレする経営者が登場するが、ブラック企業の経営者の本音はこれに近いものだろう。