自国の領有権主張を相手に飲ませるために、相手国との首脳会談を拒み、譲歩を迫る。
両国関係が悪化するのは相手国の不当な領有権主張のためだと宣伝する。その相手国と他の諸国との離反を図る――。
これらは中国の日本に対する最近の態度だと言えよう。ところがいま中国はそれとまったく同じ態度をフィリピンに対して取っているのだ。
アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議や東アジア首脳会議(EAS)が相次いで開催され、東南アジアと中国の関係が一段と注視されている。その中で、わが日本として看過してはならないのが中国のフィリピン孤立化戦術のしたたかさだろう。
中国とフィリピンの間の領有権問題で当面、最大の焦点となるのが南シナ海の中沙諸島の一部とされるスカボロー礁である。フィリピンの主島ルソンから230キロ、中国本土からは880キロの海域にあり、近年はフィリピンが実効支配してきた。海底の山が水面に露出した形となっており、中国側では黄岩島と呼んでいる。
フィリピンと中国は台湾(中華民国)もからんで、長年、このスカボロー礁の領有権を争ってきた。2012年4月には、フィリピン海軍がその近くに停泊していた中国漁船8隻を拿捕したことから対立が一層激しくなった。中国側はこの海域に「海南省三沙市」の設立を一方的に宣言し、フィリピンに対して軍事行動の構えを見せた。そして現在では中国がスカボロー礁一帯を軍事制圧した形となっている。
このためフィリピン政府は2013年1月、紛争解決への裁定を国際海洋法裁判所に仰ぐ措置を正式に取った。中国はこの措置に断固、抗議した。
フィリピン側では両国とも国連海洋法条約の批准国であることを提訴の理由とした。だが中国政府は伝統的に領有権紛争の国際機関の裁定や調停を一貫して拒んできたから、フィリピンのこの措置には特に激高したわけだ。
フィリピンの「提訴」に激しく反発
こうした背景の中で2013年3月に発足した中国の習近平新政権は、フィリピンに対して外交面での徹底した孤立化戦術を取るようになった。王毅外相は東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟の各国を何度も歴訪したが、フィリピンだけは訪れていない。東南アジア諸国からフィリピンを離反させるという露骨な戦術である。