今年の上半期、日本の対中直接投資は前年同期に比べ15.1%増という予想外の高い伸びを示した。昨年の上半期は尖閣問題を巡る大規模な反日デモが起きる前だったが、16.7%の伸びだった。

 今年は尖閣問題によって日中関係は過去最悪の状態が続いていることから、直接投資の伸びが昨年に比べて大幅に鈍化するか、または前年の水準を下回るのではないかと考えられていた。ところが、前年とほぼ同じ伸びに達した。

過去最悪の日中関係でも日本企業の対中直接投資は堅調だが・・・

 数カ月前、あるメガバンクの中国現地法人のトップはこれを予想していた。「尖閣問題後の逆風下でもほとんどの日本の大企業は中長期の対中投資計画を変更していない。だから今年の対中投資は昨年を上回ると思う」と語った。

 これを聞き、さすがに驚いた。その予想を日本で多くの方々に伝えたが、信じた人は少なかったと思う。いま、上半期のデータが公表され、その言葉が正しかったことが証明された。

 しかし、日本企業の中国ビジネスは必ずしも順調に発展しているとは言えない。一つの問題は二極化である。尖閣問題発生後、中国関係の報道は圧倒的にネガティブなものが多い。日本のメディアのみならず、欧米メディアも同様である。

 事実かどうか疑わしい情報も多い。シャドーバンキングに関する報道がその典型例だ。7月中に中国発のリーマン・ショックが発生するという話を信じた人も結構いたはずである。

 ネガティブなバイアスのかかった情報があふれる中で客観的で的確な中国市場に関する情報を入手できる企業は、現地に有力な人脈を持つ企業に限られている。

 中国での事業が軌道に乗っている企業は、社内もしくは取引先等に優秀な中国人がいて、有力な人脈を通じてリライアブルな情報源を確保できている。しかし、そうした企業はごく一部に過ぎない。

 それ以外の多くの企業はメディア報道を鵜呑みにして中国事業の展開に慎重にならざるを得ない。これによって多くの企業がビジネスチャンスを逃している。今年の上半期に投資を伸ばした企業は的確な中国情報を入手できる一握りの企業に過ぎない。

 こうした情報収集力の違いを背景に業績を伸ばせる企業とそうでない企業の間の格差が拡大し二極化が進んでいる。

 もっと多くの日本企業が的確な情報を入手できるようになれば、中国市場でのビジネスチャンスを活かせる企業が増えて、日本の対中直接投資が一段と勢いを増すことは間違いない。