安倍晋三首相は夏休みに入り、消費税の増税についての判断は秋の臨時国会まで先送りされそうだ。しかし消費税増税法の付則第18条には「消費税率の引上げに当たっての経済状況の判断を行う」と書かれているだけなので、増税を延期するには法律を改正する必要がある。

 今はそんな非常手段を取るほど景気が悪いのだろうか。8月12日に発表された4~6月期のGDP(国内総生産)速報値は、予想より低かったが、年率2.6%とまずまずだった。それなのに首相がためらっているのは、彼の周辺に増税を延期させようとする人々が多いためだろうが、彼らの話には根拠がない。それをデータに基づいて検証してみよう。

【神話1】消費税率を上げて景気が悪くなると税収が減る

 これは一部の人々がいまだに主張している神話だが、消費税率を上げて消費税収が下がるはずがない。これは消費税収は増えたが、他の税収が減ったことを意味する。その1つの原因は課税所得が減ったことだが、もう1つは所得税・法人税の減税である。

図1 減税(所得税・法人税)の税収への影響

 図1は今年の経済財政白書のものだが、確かに1997年の消費増税のあと税収は減っているが、90年代の初めから税収は減り続けている。その原因はバブル崩壊による不況に加えて、所得税の減税を繰り返したためだ。

 日本の所得税は累進性が高く、86年までは所得税+住民税の最高税率は88%だった。これは国際的に見ても高すぎるという批判が高まり、累進性を徐々に下げ、最近では最高50%まで下がった。

 特に99年からは年2.7兆円の恒久減税が行われ、課税最低限度も384万円まで上がった。もしこうした減税がなかったら、図1の赤い点線のように、2000年には消費増税前の税収に戻っていたはずだ。

【神話2】1997年の消費税率引き上げでデフレになった

 これもよく出てくる都市伝説だが、次の図をよく見てほしい。消費税率が3%から5%に上がったのは1997年4月だが、その前の96年10~12月期と97年1~3月期には、駆け込み需要でGDPは大幅に伸びた。その反動で4~6月期には成長率はマイナスになったが、97年の10~12月期には年率2%まで回復した。

図2 消費税率の引き上げ前後の実質GDP成長率(年率)、出所:総務省
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